【文スト】境界の栞 Ⅱ【太宰治】 (ページ43)

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91葉ページ43

《倉庫街通》
多くの車両が行き来する倉庫街通の路上で、私達は国木田君が連絡したタクシーが来るのを待っていた。

「愉快な子だったねえ」

「そんなに面白かったか？」

「うーん、そういう意味じゃないかなぁ」

「奴をお前と引き合わせたのは失敗だった……碌な事にならんと先に気づくべきだった」

「……センパイ、一つ質問していい？」

「何だ」

「何故六蔵少年の面倒を見てるの？」

そう問われた国木田君の顔から色が失われる。マフィアでも幾度となく見た、触れられなくない過去に触れられている人間の表情だ。

『彼に仕事を出すのはおかしいよね。失踪者の足取りなんか探偵社で追えるし、今回も電話で済む話なのにわざわざ足を運んでるし。
……ちらっと出てた、彼の御父上に関係あるの？』

反射的に私の方を見る国木田君に薄く笑う。

『どうやら中りってとこかな』

「……六蔵の父親は優秀な警官だった。だが死んだ。
嘗て、探偵社は警察と協力し、ある犯罪者を追っていた。大物の犯罪者で、国や企業の施設を幾つも破壊した凶悪犯だ」

「……《蒼色旗の反乱者》事件か」

蒼色旗の反乱者事件。軍警、市警、公安によって警戒態勢が敷かれ、昼でも夜でも公安やら軍警やらがわらわらと出歩いていた所為で思うように動けずヒヤヒヤしたことを覚えている。

「そうだ。俺達探偵社は追跡の末、竟に奴の潜窟を見つけ出すことに成功し、市警に報告した」

「大手柄じゃない」

「嗚呼、確かにそうだ。だが当時のあの事件は軍、公安、市警が合同で動いており、指揮系統が入り交じって混乱していた。
更に悪い事に、犯人はこちらの動きに勘付き、潜窟に立て篭もった。大量の高性能爆薬を抱えて」

『点火されたら一溜りもないし、混乱も無理ないかな』

「嗚呼。混乱した指示の所為で、素早く現場に駆けつけたのは現場刑事が僅かに五名。
彼等に出された指令は速やかな突入と制圧。
…だが、世間を震撼させた凶悪犯《蒼王》を相手に、特殊部隊でも異能者でも無い五名に何が出来る？

高性能爆薬(ハイエクスプロオシブ)は点火すると瓦斯化し凄まじい威力で対象を破壊する純破壊・殺傷用の爆薬だ。当然、そんなものが炸裂すれば───

「結果、犯人は追い詰められ、爆弾に点火し爆死した。犯人も五名の刑事も全員死亡」

「───その亡くなった警官の一人が、六蔵少年の父親か……」