【文スト】境界の栞 Ⅱ【太宰治】 (ページ30)

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78葉ページ30

辿り着いたのは路地裏にひっそりと佇む服屋だった。洗浄が終わったとはいえ未だ人に見られるのは得策じゃないからだ。

『私マフィアとか関係なしに黒以外あんまり着ないからなぁ……』

「それ駄目じゃないか」

とはいえスカートという柄でもないし動き易い格好がいい。どうしたものか……

「これとか？」

『治さんよ私を殺す気なのか』

「太宰君…これから向かうのは職場ですよ？」

「それは……流石に駄目だろう」

満場一致で却下され、えーと不満そうな声を漏らす治。何を選んだのかはノーコメントとしておこう。
このままでは決まらないと半分悟った私は適当に選んでちゃちゃっと着替えると、若干不安に思いつつも更衣室のカーテンを開く。

『如何かな？』

「似合ってるよ？いつも黒だったから新鮮」

「嗚呼。Aらしいと思うぞ」

何とかOKを貰えたようでホッとする。ふとキラリと翡翠色の光が見えて振り返った。

『あ……』

何となく手に取ったのは、翡翠のループタイだった。私があの時あげてなかったら付けてたのかな……

『あの、これ下さい』

「はい」

「買ったの？」

『うん、何となく……』

思わず買ってしまった……私には髪飾りがあるから不要なんだけどね。
そう思いながらも受け取り一先ずスキマに仕舞うと、代わりに髪飾りを取り出す。髪に挿そうとした処でストップが掛かった。

「あ……Aさん、暫くはその髪飾りを付けない方がいいかもしれません」

『え？何で？』

「知っての通り、あなた達にはマフィアから指名手配がなされている訳ですが───Aさん、あなたの特徴としてその髪飾りが挙げられています」

『うそん……』

つまり、あれを付けて外を歩いてるとマフィアにかっ拐われるって事なのね(遠い目)

『……じゃ、残念だけど落ち着くまでは暫く自粛かな』

「仕方ないさ、私と違って君は常に付けてたし」

『……そうだね。止めとけばよかった……』

「じゃ、私も着替えて来るよ」

『はいはーい』

どうやら変化はなかったらしく、治も何時もの(といってはおかしいけど)見慣れた砂色の外套姿だった。

「雰囲気変わりましたね」

『織田作は通常運転だけど』

「俺は別に構わない」

『あ、いいんだ……んで、どうするの？』

「これから社の方に。種田長官も来られるそうです」

『ほーん、あのおっs……おじさんが』

「A、それ意味が変わってない」

『てへっ』

因みにそれを見た安吾は天を仰いでいた。