【文スト】境界の栞 Ⅱ【太宰治】 (ページ3)

今日:11 hit、昨日:9 hit、合計:57,981 hit

51葉ページ3

残った最初に飛びかかってきた少年……小型(スモール)ギャングを束ねる頭目は、この明らかな敗北を見ても果敢に飛びかかる。体を低くし相手の体勢を崩そうとする作戦は有効だった。

───相手と同等の体格であれば、だが。

突進してきた少年をそのまま受け止めて脇を抱えて持ち上げる。逆しまにしてわっしゃわっしゃと揺すれば、彼は二日酔いの山羊のような声を上げた。

「参ったか？」

「参らない！」

残りの子供達は諦めたのか、彼がどれだけ抵抗出来るかの見学に入っている。不意に、背後から人の気配がした。

『中々面白そうな事してるね』

「A？何時そこに……」

『ついさっき』

ニッコリ笑うAから真意は読めない。織田作でさえ気配はおろか扉の開く音に気が付かなかったのだ。子供達も声を掛けられて気がついたのか驚いた顔をしてAを見るが、当の本人は澄まし顔で織田作の方を向いた。

『どういう状況ですか？報告を』

「小型(スモール)ギャング団の襲撃を受け撃退しました。此奴が頭目です」

『ほほぅ……？』

ニヤリと笑うAに、抱えられている少年も厭な予感がしたのか顔を引き攣らせる。

『ヨコハマの闇を取り仕切るポートマフィアには三つの掟がある。
首領である森さんの命令には絶対に従うこと。組織を裏切らないこと。そして───』

「受けた攻撃は必ずそれ以上にして返すこと」

『その通り。で、捕虜には尋問かけないとねぇ……マフィア流の拷問と行きますか。私に吐かせられなかった捕虜は居ないんだから』

「助太刀しよう」

うねうねと指をくねらせながらニヤニヤ顔で近づいてくる二人。二人がかりで思いっきり擽った。

『うりうりー、降参しないのー？』

「ぶひゃひゃひゃひゃ！待っ、あひゃひゃひゃひゃひゃ！」

少年が降伏条約に同意するまで掛かった時間は僅か一分足らずだった。

ｰｰｰ

「辛っ！辛いよおじさん、これ辛い！隠し味に溶岩でも入ってるの！？」

『はー、遊んだ遊んだ』

「何か上から凄まじい音がしたけど……」

『うふふ。咖喱冷めてなくて良かった』

「Aはよく食べられるね！？」

『絶対辛いし少し甘めにしてもらった』

「え！？」

「ははは、そうかい？織田作ちゃんはいつもそれを食べてるよ。おかえり織田作ちゃん。子供達はどうだった？」

「きわどかったが、今回も敗北は防いだ」

『きわどかった、ねえ。織田作なら直ぐ抜けられそうだけど』

「そんなことはない」