【文スト】境界の栞 Ⅱ【太宰治】 (ページ2)

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50葉ページ2

「織田作ちゃん、難しい顔してるねえ。便秘かい？」

海沿いの道にある洋食屋、フリイダム。咖喱を食べていた中そう問われ顔を上げた織田作は、特に気にする事もなく返した。

「考え事だ。便秘ではない。もし今俺が便秘なら、咖喱の様な刺激物を食べるのは避ける」

「そう、まあそうね……織田作ちゃん、咖喱食べてる時にそういう話題されて怒らないの？」

「そんなものか。怒るべきだろうか？」

「いや……判んないけど」

「こらー」

「無理しなくていいんだよ織田作ちゃん……咖喱の味はどうだい？」

「いつも通りだ」

完食し満足すると、織田作は珈琲を飲みながら尋ねた。

「子供達の様子はどうだ？」

「相変わらずだよ。小型(スモール)ギャングさ。五人だからまだ何とかなってるけど、もう五人増えたら国際協力銀行の襲撃だってできそうだね。皆二階にいるから、顔を出してくるといいよ」

言葉に一つ頷き、事務所の上へと上がっていく。二つの扉───居室と書庫の扉の内、居室の扉を開いた。

「よう、元気か」

子供たちは各々のやる事に夢中なのか、顔を上げることなく打ちこんでいる。織田作はそんな様子を気にすることなく言葉を続けた。

「親爺さんに迷惑をかけていないか。親爺さんはかつて凄腕の軍人だったから、その気になれば文句を垂れるお前達五人を一瞬で───」

真顔で冗談に聞こえぬ冗談を云っている途中で気がついた。───四人しかいない？
刹那、二段寝台の上の闇から飛び出した敏捷な影を頭を落とし躱す。
だがそれは囮だったようで、本命らしき絵を描いていた少女が織田作の右足に飛びついた。

「！」

次に来るだろう攻撃を予測し足を踏み出せば、その動きさえ予測していたのだろう。つい先程まで綾取りに使われていた紐が仕掛けられていた。
躯のバランスを保てなくなったなり寝台を掴もうと試みたがまたもや予測されていた。塗られた蝋絵具(クレヨン)に手が滑り床へ手をつく。背後から二人の少年が飛び掛かる。
───本物のマフィアの恐ろしさを教える必要があった。

「うぐっ！？」

「きゃあーっ！」

織田作が行った動作はごく簡単な二つだけだ。
まず手近に落ちていた少年の使っていた軟球を払ってぶつけると、少年は狙いを失って地面に着地した。顔面にヒットした。かなり痛いかもしれない。
次に紐の罠によって捕らえられていた右脚を無理矢理脱出させ高く掲げれば、少女は嬉しそうな悲鳴をあげながら床へと落ちた。