#12 外の人、中の人 2 ページ12
兵舎を飛ばして、本部に向かう。
にやけが止まらない。
Aのあの顔、色事に慣れていないところが、正直堪らなく唆る(そそる)から、厄介だ。
ーーー色々、仕掛けたくなる。
ぎりぎりの攻防で、必死に俺を否定しようともがく、年下のあいつに
ーーー俺は結構、ハマっちまったらしい。
ーーー少し前は、こんなこと、全く無かった。
脅すみたいな告白であいつを手に入れて、
掻っ攫う(かっさらう)みたいに新居に連れてきて。
はじめのうち、会話は皆無(かいむ)だったに等しい。
「飯か、風呂か。好きな方を選べ」「明日は訓練行くのか」「会議で遅くなる。先に寝とけよ」
喋っていたのは俺の方ばかりで、あいつは頷くだけだった。
ただーーー、事情がいまいち飲み込めないせいか、そんな風に強引に振舞ってみせても、
Aは文句ひとつ言わなかった。
ーーー俺を問い質す(といただす)ことも、『結婚』の選択に疑問を付すことも、絶対にしなかった。
ただ、俺の瞳を見て、
時々、馬鹿みたいに泣きそうな顔をしていた。
二人きりに取り残された新居で、沈黙は相当こたえた。
俺はなるべく仕事を長引かせて、
Aを無理に連れ出したことに負い目を感じながら、
真夜中過ぎに帰宅する生活を送っていた。
ある夜。
家はいつも通り真っ暗で、俺は足音を忍ばせながら、居間に入る。
結婚したけれど寝室はまだ、別にしていた。
ーーー簡単に言うと、どうしていいか分からなかったからだ。
一方的に攫って(さらって)おいて何だが、俺はいまいち踏み出しかねていた。
Aの心まで、踏みにじってしまうみたいで嫌だった。
ただでさえ無理をさせているのに、その理由さえ明かさないのに、それではあんまりに身勝手だと、思ったからだ。
居間のソファが、俺の寝床だった。
着ていた上着を脱いで、全身のベルトを外しにかかる。
クラバットを解いて襟元を緩めて、
さぁ、眠ろうか、
ソファを振り向いた俺はそこではじめて、
見慣れぬ先客に気が付いた。
ーーーA、だった。
身体を丸めて、俺の女は毛布もかぶらずに、
気を失うような泣き寝入りをしていた。
瞼は腫れて、涙の跡がいくつも見えた。
投げ出した左手に、結婚の証はない。
俺が、故意(こい)に贈らなかったから。
ーーーこいつの、不安の、原因は、俺だ。
胸がぎりぎり締め付けられて、その時はじめて、俺は堪らなくなった。
こいつに、触れずにはいられなくなった。
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りりこ(プロフ) - かたちなにさん» はじめまして、コメありがとうです！展開がややこしいお話なので、気に入っていただけてこちらも嬉しいです！糧にして、頑張って続き書きますね〜笑 2幕以降もお楽しみいただければ、幸いです！ (2016年10月15日 13時) (
レス) id: f30cb6bd23 (このIDを非表示/違反報告)
かたちなに(プロフ) - 見入ってしまった! 話が深くてとても面白い! 興味本位で読み始めたけどワクワクが止まりません笑 とても素晴らしい作品！！ (2016年10月15日 8時) (レス) id: 750b6b2d88 (このIDを非表示/違反報告)
りりこ(プロフ) - ハルさん» こちらこそ、混乱させてしまって、ごめんなさいね（泣）精進いたします！応援&コメント、本当にありがとうございました！ (2016年3月11日 17時) (レス) id: b097ba1888 (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - そうでしたか！細かな説明ありがとうございます！どちらの作品も楽しく読まさせてもらってます！これからも応援してるので頑張ってください (2016年3月11日 15時) (レス) id: 3eef4ca069 (このIDを非表示/違反報告)
りりこ(プロフ) - ハルさん» というイメージです。ある種の「パラレル展開」という傾向ですね。長々と連投、すみません。あちらの作品は、「甘々展開だけが読みたい！」と思われた時にでも、立ち寄っていただければ、幸いです。コメントありがとうございました！ (2016年3月11日 12時) (レス) id: ac8a3e0fe6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：りりこ | 作成日時：2015年7月10日 2時
