もう届かない (ページ5)

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「Aーまた日記書いてるのか?」
「…」

顔も上げず、声も出さず、ただ頷いた。エースはそれを満足気に受け入れ、向かいに座った。
またしてもここは食堂で、今度は机を揺らさないように静かに座った。

「なァ、いつも何書いてるんだ?」

Aはエースの目の前に日記を差し出す。読め、ということらしい。

エースが読んでまず思ったことは、キレイな字であるということだ。バランスが良く、読みやすい。
目を通して、これは前日にあったことをまとめているのだとわかった。昨日の戦闘について細かく記されていた。

「毎日書いてんのか?」
「時間がある時だけだ」
「ふーん…」
「…それで、前の日記は処分してくれたか」
「オレの能力で消し炭に…」

していない。エースはそこで日記を隠してそのままであったことを思い出した。

「そうか。ならいい」
「お、おぅ……」

エースは汗が背をつたうのが嫌でもわかった。まずい。そう思ってAにまたな、と声をかけると食堂から大急ぎで出て行った。

あれから数日経っている。勿論酒樽は既になく、今日買い出しに行っているサッチを頼るしかない。

「サッチ!!なァ、サッチ見てないか?!」
「隊長ですか?今日は見てないです」
「わかんないです」
「船を下りてからどこまで行ったのかは…」

手当たり次第に訊ねて回るも、今日に限ってサッチは単独行動らしい。
町を走り回るが、そんなことでは見つかる訳もなく、船に戻ってくるのを待った方がいいと気づいたのは日没を迎えようとしているときだった。

「サッチ〜……」
「エース?どうした、そんな泥塗れで」
「な、甲板にあった空の酒樽知らないか?」
「あれならもう酒を入れて保管してるが…なんだ、樽が欲しかったのか?」
「いや、それが、あーなんて言ったらいいのか」

エースにはかいつまんで話す、という芸当ができないので酒樽を探す経緯を全て話した。

「お前なァ……」
「いや、うっかりしてて…」
「ったく…だが、どれに入ってるかなんて開けてみなきゃわかんねェぞ。しかもあの量だ。宴でもしない限り減らねェ」
「うぅ」

酒樽の所在はわかったが、問題の解決には至らなかった。エースは肩を落とし、正直にAに言うしかないと暗い表情で呟いた。
その様子が見ていて思うところがあり、サッチは一肌脱ぐことにした。

「俺が酒樽を見といてやるから、そんな落ち込むな」
「サッチ…」
「見つけたらすぐ呼んでやるよ」

エースは泣き出しそうなほどに喜んだ。