もう届かない (ページ20)

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島の美しい景色も、芳しい花々も、猛々しい生命の息吹も、なにも残っていない。栄えた村も、穏やかな田畑も、賑やかな町もその全てが塵芥と化していた。

「××……皆、みんな……なぜ、どうして」

Aは両膝をつき、舞い上がる粉塵に縋る。
鼻をつく臭いは、知りたくもない。見える光景は脳裏に焼き付く。

あの日見た海賊共、島の人達、その判別もつかないほどに骸が転がっていた。

「任務遂行いたしました!海賊の殲滅、掃討は本日をもって終了となります!!」

大きく響く声が島の空気を揺すり、この蛮行は海軍によるものであると悟った。

何か都合でも悪かったのか、目撃者は全員消されてしまったのだ。

「なにが、正義だ……なにが、救うだ……」

Aは血が出るほどに強く拳を握り、殴りかかりたい衝動を抑えて海軍の撤退を見送った。
誰一人として、島民を弔うことも、振り返ることもなかった。

あれからAはたった独り、丁重に埋葬をしていた。海賊も島民も関係なく。
弔い、花を供え、石を彫る。名の知らぬ海賊には掲げていたドクロを彫ってやった。

そうして、一つまたひとつ増えていく墓標ではあったが、最愛の女性だけは未だ見つからなかった。島民も残り数人であろうと予測していたが、その中に果たして彼女は居るのだろうか。

無意識に避けていた大広場。残すはそこだけで、弔いも終わるだろう。Aは安堵か疲弊かわからぬため息を吐きながら、重い足を引きずって向かった。

愛しい女性と目が合った。

「あぁ、××………」

正しくは、女性の頭部であった。最愛の人は美しい髪を風になびかせて、薄く口を開いて、事切れていた。離れ離れの胴体は傷だらけで、否応なしに何があったかを悟らされる。
Aに正気などとっくに残っておらず、女性の頭部を優しくやさしく抱え込み、つ、と涙を零した。

(素敵な場所ね、貴方のお気に入り?)
「そうだよ」
(とても美味しい!私も作れるかしら)
「君は器用だから、すぐできるさ」
(…ついに、夫婦になれるのね)
「うんと素敵な式にしよう」

もう聞くことの無い声がこだました。