もう届かない (ページ17)

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遠い遠い昔。太陽と月が何度入れ代わったかも分からないほど昔のことである。
とある島に次男坊として産まれたA。生来の生真面目さと優しさから男女分け隔てなく、周りから愛され、同様に周りを愛していた。

島は平和そのもので、権力争いや土地の取り合いなど無縁で、皆がみな手を取り合って暮らしていた。
田畑を耕し、森を拓き、最低限の家畜を育てていた。

幼い頃から耕作と狩猟に向き合っていたAは自然と武器のないときの護身術を学んだ。島の人間は大体そうであった。
違うことといえば、Aは一人で鍛練することが多い、それだけであった。

青年と呼ばれる年齢を迎えた時、Aは美しい女性と知り合った。島民きっての美人と名高い女性であった。
きっかけは罠にかかった獲物を捕まえていたAが、転んで怪我をした彼女を介抱したことである。

島ではよくあることであった。

女性はAに深く感謝し、度々会いに来ていた。Aも嫌う理由もなかったので親しんでいったが、やがて互いに想い合うようになった。

春先。冬眠から覚めた熊を仕留めたAは既に一緒に暮らしていた彼女に唐突に告げた。

「結婚しよう」

彼女は驚いて持っていた物を落としたが、段々と笑みを深くして泣きながら頷いた。嬉しい、嬉しいと繰り返していた。

Aは狩った獣を売っては貯金をし、知人らに祝福を受けながら結婚の準備を進めていた。美しい彼女に似合う衣装、花、プレゼント……用意するものは実に多かった。

気づけば夏が目前に迫っていた。島の外では海賊や海軍がと騒いでいたが、島民達は知る由もなかった。

着々と準備を進めるAはやっとの思いで手に入れた宝石を磨いて指輪に仕上げてもらう様を観察していた。

「結婚か」
「…うん」
「良かったな」
「ありがとう」

職人は祝いだと言って代金を受け取らなかった。Aは深く頭を下げ、彼女の待つ家に歩いていった。

友人の一人が、いつの間にか撮っていたAと彼女の写真をくれた。それは二人の家の玄関に飾ってある。今度しっかりとした額縁を用意しよう。結婚式には誰々を呼ぼう、花はあとどれだけ必要だったか……

考えて歩いていると、家がある集落にたどり着いた。

何故か人の気配がない。