もう届かない (ページ11)

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時は遡ってサッチが写真を拾った後のこと。すぐに夕食の支度をしなければならなかったので、写真はサッチの自室に干しておいた。

そして深夜。コックとしての仕事も終わり、干していた写真も頃合いだろうと部屋に戻ると、エースがいた。
写真を見つめ、拳を握り締めていた。

「…これ、A、だよな」
「え?……あァ、そうだな。にしてもずいぶん若いな」
「隣の、誰だ」
「うーん、かなりの美人だが……ナースには居ないなァ」

エースは写真を持ち上げ、じっくりと眺める。

Aは白ヒゲと変わらぬ年齢だと聞いたことがある。だが、見た目にはわからない。つい最近まで、マルコと同世代と思っていたほどである。

そんな彼が写真の中では見るからに若いのだ。それこそ、エースと変わらぬ程に。

「……死に別れた、嫁さんとか」
「サッチ…やっぱりそうだよな…」
「写真返した方がいいんじゃないか?」
「……」

エースは小さく頷き、部屋を出ていった。サッチはその様子に違和感を抱く。

「なんたってAが女の写真を大事にしてただけでしょげてんだ……?」

謎の答えはわからなかったが、サッチは特に気にすることもなく、ベッドに潜った。

翌朝。ほとんどを忘れかけていたサッチはいつもの通り、日が昇ってすぐに目を覚ました。
キッチンに向かいながら、ふと気付いた。

「おーい!!もう交代の時間だぞーっ!!」
「えっ?そうなんですかー?」

マストに蹲る毛布の塊に声をかけると己の部隊の人間であった。交代時間を忘れるなど珍しい。
そう思いながら降りてくるのを見守っていると、部下はぽつりとこぼした。

「いつもならカナルタさんが気付かせてくれるんすけど…頼りすぎでした」

そういえば今日はAが鍛練しているところを見ていない。いつ起きているのか知らないが、朝の仕込みを始める頃には甲板で一人拳を振っているのだが。

「んー?……うおっ!!は、早起きだな、エース」

食堂に何の音も立てず、エースが座っていた。その目の前には数時間前に見た写真が置かれている。

「…A、いつもならもう食堂で本、読んでるよな」
「あー静かに読めるのは朝ぐらいだとか言ってたな」
「……全然、来ないんだよ」
「お前、一晩待ったのか!?」

エースはうっすらと目の下に隈を作っていた。それでも欠伸の一つもせず、ただただ座っていた。

「……どうしよう、オレのせいだよな」
「いや、それは…」

ないと断言できない。二人は黙って頭を抱えるしかなかった。