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阿部side.
腕の中で目を覚ましたAさん。
目の焦点もいまいちあってないのに、逃げるように離れた、かと思ったらピタッと止まって、そのまま俯いて動かなくなった。どんな夢を見たのか。近寄れそうにない雰囲気で。それでも安心させたくて、そっと触れた手はまた震えていた。
どうしたものか。
お湯を沸かしながら考える。
カタン
物音が聞こえて振り返ると、寝室から自分の服だけを着たAさんが出てきた。
阿部「あれ。服、嫌だった?」
振り返ると、俺の服、ではなく自身の服だけ着たAさんが立っていた。
「…その、もう帰ろうと思って。だから、その。ごめんなさぃッ、」
床のどこでもないところ見て勢いよく頭を下げて、自分の鞄を取って玄関まで走っていく。
阿部「え?あ、ちょっと、ねえ!」
慌てて火を止めて、玄関まで追いかけていく。
阿部「ね!待って?」
慌てて靴を履こうとする彼女を、手を掴んで引き止める。
「離してくださいっ」
阿部「だめ。無理。こんな時間に1人で帰せない。何で、急に?帰るなら送っていくから。だから待って。」
「大丈夫です。大人です。ひとりで帰れます。」
本当にこの人は、、どこまでも嘘をつくのが下手なんだから。強がってるのか、睨みつけるように見上げてくるが、俺が無理に手を掴んでいるっていうのもあるんだろうけど怯えて震えてて、顔色は真っ青、瞳は泣きそうなのかうるうるしていて、当然目は泳いでる。とてもじゃないけどこのまま帰す事はできない。
阿部「大丈夫じゃないでしょ?大丈夫な人は、そんな震えた声で泣きそうな顔しない。どうしたの?ちゃんと話そ?大丈夫。全部受け止めるから。そんな状態でなんか帰さないから。」
「なん…で、、そんなこと。私じゃ。」
阿部「…とにかく、こんなところで話せないから。ほら、いくよ?」
何かゴニョゴニョ言っているが聞こえないふりして、もう一度寝室に押し込む。
阿部「はい。じゃあ、着替えてきて。そこからやり直し。はい。カバンはもらうね?着替えてからじゃないとそこから出してあげないから。」
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作者名:紫 | 作成日時:2023年8月4日 2時