【3年A組】Espoir - 卒業 -

019話 ページ20

『一颯先生』

柊「絵なら描いててもいいぞ」

『黒がなくなっちゃってさ、そこら辺の使っていい？』

柊「いいよ……あ、その前にこっちおいで」

『ん？……いった！』


一颯先生の近くに寄ると先生は、さっき叩かれた部分を触った。

ピリッと地味な痛みに顔をゆがめる。


柊「引っかき傷が出来てる。大きめの絆創膏貼るからココに座って」


私は先生の指さした椅子に腰を下ろす。

先生が絆創膏と消毒液、ティッシュを持ってきて手当してくれた。

少し大げさな気もするけど。


『さっきは出てなかったのになぁ』

柊「じんわり出てきた感じだね。全く、Aのかわいい顔に傷を付けるなんて……ペナルティーいるかな」

『大丈夫だよ。あれは私も言い過ぎたと思ってるし……てか、可愛くないから！絵描いてくるね』

柊「俺の授業の時声かけるから、それまでならいいよ」

『はーい』


私は美術準備室を出た。

私が描いているのは澪奈とさくら。

実物をモデルにすることは出来ないから、残っている記憶を頼りに筆先を滑らせる。

すると、美術室の扉があいた。

真壁君と不破君だった。


真壁「こんなとこにいるんだ」

不破「お前呑気に絵なんて描いてるのかよ」

『そうよ。絵描いてないと、この非現実的な状況で精神が安定しないだけ』

不破「そーかよ。真壁、行くぞ」


先生に危害を加えるつもりなら止めるけど、彼らは丸腰。

たぶん、美術室に入ってきた時点で警告画面になるはずだから、先生も気づいているだろう。


真壁君が準備室の扉を開けようとすると先生が先に扉を開けた。

突然なくなったドアノブにバランスを崩した真壁君は前のめりに倒れる。


不破「あぁ、いや……俺ら和食はなんで。パンじゃなくておにぎりとかないかなって思って」

柊「……なるほど、考えておくよ。

そろそろ授業始めるから、みんなに声かけといて」

不破「はい」

真壁「行くぞ」


先生が準備室の扉を閉めてから教室で帰るまでの間。

私の真横を通過したときに「見たか？」「あぁ」

とコソコソ話をする声が聞こえた。


きっと先生の机の上にあった2人分の朝食でも見たんだろう。

見え見えな嘘をついて中尾君が本当に殺されたかどうかを確認しに来たというわけだ。

そんなことを頭の中で考えながら、澪奈とさくらを着色していく。


柊「塗り方が丁寧で繊細だ」

『あ、先生。授業ですか』

柊「そうだ。行くぞ」


私は先を歩く先生についていった。

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