「やってみたくなったかも」 ページ29
奏side
「あ」
足音がして、振り向くと。さっきの男の子だった。
「さっきはどうも、ありがとう」
『いや、気にしないで。私も弁当届けられたし』
「弁当?」と不思議そうな表情の柳。その背後から父が歩いてきているのが見えた。
『あ、お父さん』
「かなで!」
「!」
柳は目を丸くした。
まさか父が審査員だったとは思わないもんね...
「君が、娘の言っていた子だね。迷子の」
「はい...」
まだ、びっくりした様子で柳は答える。
「リョーマに似てる子って言ったから一瞬でわかったよ。」
ふふ、と目を細めて父は、柔らかく笑う。
「すいません...遅刻したのに受けさせてもらって」
「いや、いいよ。あれも斬新で面白いしね。久しぶりに楽しめた」
そう言うと、じゃね、と父は去っていく。
休憩室には柳と私だけになる。
『柳、わざと遅刻したでしょう』
「!」
ギクッと肩が上がる。...わかりやすい。
「何でわかったんだよ?」
『いや、普通なら行ったことのない場所にギリギリの時間に行ったりしないから』
「あ、そうか」と素直に納得する柳に、ふっと笑う。
『なんで行きたくなかったの?』
「...めんどくさかったから。俺、ダンスがしたくて芸能界入ったんだ」
けど、思うようにいかなくて、俳優の仕事ばかりでやる気が出なかった...と。
『このオーディションよく受けたね』
「マネージャーが行け行けうるさくてさ。で、だるいからわざと遅刻していったんだ。」
はぁ...とため息をつく柳。
「でも結局、言う通りに受けた。中途半端だよな。多分受かんないだろうけど...」
『受かるよ』
受かるかも、とかじゃなく受かる、という確信的な物言い。
『別に私の父が審査員だからとか、そういうので言ってるんじゃない。柳自身を見て、直感で思った。』
「...」
私がオーディション会場でたくさんの応募者を見ていたって変わらないだろう。
過剰評価しすぎか、って思うかもだけど、本当にそう感じたんだ。
柳はしばらく驚いていたけど、
「俺、やってみたくなったかも。...受かったら1番に言うよ」
『!...うん、楽しみにしてる』
頑張ってね。柳。
58人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
檸檬けーき。(プロフ) - 精一杯頑張ります! (2019年12月27日 22時) (レス) id: 31d6ef12c3 (このIDを非表示/違反報告)
もも - 斬新で面白いです!更新頑張ってください! (2019年3月20日 10時) (レス) id: 04df7ed0c6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:檸檬けーき。 | 作成日時:2019年3月15日 21時