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彼女と一緒にホテルに入った覚えはない。
酒を飲んだかと言われると、飲んでいないと思う。
そして、彼女と一線を超えたかと言われると、それも違う。
正直、未遂だったし、彼女の連絡先も知らない。
しかし、週刊誌に撮られてしまい、
ああ、あの女はこれが目的だったのだ、と今更ながら気づいた。
Aとのことを、公にしているつもりはないが、
ファイターズでは知られた話やし、
タイガースでも普及しつつあることだと思う。
球団関係者か、それとも、記者？
いろんな考えが巡ったが、どれも分からない。
次に、あの女から連絡があったのは週刊誌が発売されて次の日だった。
なぜ、俺の番号を知っているのか、とも思ったが、
寝ている間に指紋認証してしまえば、
誰にでも開けるチャンスはあることに気づいて、
自分の浅はかな行動に自己嫌悪する、
(中島さんですか？)
「………、はいそうです。」
( 週刊誌、見られました？)
「ああ、
………なにが目的？どうしたいと？」
(私のものに、なってくれませんか？)
「………は？」
(Aさんと別れて、私と付き合ってください。)
「……なんで？」
簡単に言えば、コネで入社した実力不足のアナウンサーらしいこの女、
名を売るために俺と付き合って欲しい、と要求してきた。
「……俺やなくてもいんやないと？」
(いえ、彼氏にしたいNo.1の選手ですからね、株は高いですよ)
「………………、」
(特にファイターズは若いファンの方が多いですから、話題性も狙えますし。)
とことん、貪欲な嫌な女。
自分で這い上がろうとは思わんのか、
「嫌だと言ったら、」
(父に頼んで、彼女をクビにさせます。)
「！？」
虫唾が走った。
怒りと焦りと、いろんな感情が一気に湧いてきた。
(ふふ、余裕、なさそうですね。そういう貴方が見てみたかったんです、)
「………考えさせて、」
(分かりました、1週間後にもう一度連絡しますね、)
そう言って電話を切ったが、
心は穏やかじゃなかった。
もう、離れなくていいと思っていた。
ようやく、将来も約束できたのに。
ただ、Aは、遠い地で今日もがんばっているのだと思うと
一度でも早く、球場に行って練習をしなければ、と思った。
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作者名：璃央 | 作成日時：2017年8月13日 16時
