仕事_132 ページ36
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うつむいて雪原を見つめる黄金の瞳が、揺れる。
Aはとろとろと沈み始めた意識の中で、言わなければいけないと思うことを懸命に選ぶ。
『今、五虎退は生きている。だから、もういいよ。そんなこと、私は絶対に命じない、から…』
だから、胸の痛みなど、ここに置いていけばいい。それで、もう二度と繰り返さなければいいのだ。
一期を見つめて、Aは目を細めた。
後悔と自責の念に
眠れ。痛みを伴う記憶よ。この、空から舞い落ちる、
すべてを覆う六つの花びらの花よ。永年の痛みをその白い花びらで抱きしめたまま、春の訪れとともにとけて、消えてゆけ｡
そしてまた冬が訪れたなら、雪は何も知らない白い姿で、地上に舞い落ちる。悲しみを、苦しみを、再び覆いつくしてくれる。
『もう、いい…。…苦しんだりしなくても…、いいんだ……』
Aの声が、途切れ途切れになっていく。
どうしようもなく眠い。ここで眠ったら、凍え死ぬだろうか。
少し考えて、それはないかとAは考え直した。
自分が死神だからではない。
眠ったらきっと、一期が本丸まで運んでくれるに違いないからだ。
そうやって真綿でくるむようにして、いつも自分を守ってくれている、優しい
それが、Aの知っている一期だ。
ぱたっとAの手が、雪の上に滑り落ちる。
少しだけ頬が痛いなあと思い、それを最後にAの
化け物の瘴気とひのとの母の送魂で消耗しきっていたのに、限界を超えるまでAは、一期のために堪えていたのだ。
一期は、のろのろと顔を上げた。
揺れたままの瞳が、
一「……どうして」
天の理を犯した。これは重く汚れた罪だ。
なのに、あなたの言葉で、許されると錯覚してしまう。
ふと視線を落とすと、彼女が自分の手を柔らかく握っていた。
すべてを知っても、名を呼んでくれた。
こうやって、手をのばしてくれた。
一「…っ…どうしてあなたは、そんなに優しいのですか…？」
消え入りそうなその声は、誰に聞かれるともなく、雪の中にとけていった。
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作者名：葛の葉 | 作成日時：2018年12月16日 16時
