【HQ】無表情マネちゃん（稲荷崎の場合）

2年生、春 ページ13

Aさんは最高に腹を立てていた。
そりゃあもう、誰が見てもわかるくらいにご立腹や。


「ここは見学不可って書いてあるやろ」
「ここが一番見えるんですよ！ちょっとくらいええやないですか！？」
「休憩中の選手の邪魔するからここはあかんて書いてあるし言うてるやろ」
「こうでもしないと話す機会なんてないんやからええやないですか！！！」


毎年恒例の新入生のマネージャー応募は今回から受付してないにも関わらず入部届がいくつか届いたと監督に言われて嫌そうな顔(傍から見れば無表情ではあるが)をしていたAさんの怒りは部活動を見学できるこのタイミングで爆発したのだ。
普段部活動はオールシーズン見学不可にしている。ただ、この時期、新入生が仮入部できるこの2週間だけは解禁されており、今年はマネージャーを応募していないバレー部に女子生徒の見学者が殺到していた。
当然、バレー部は普段通りの練習を行っている。休憩中も練習中も絶えずうるさい外野にいち早くキレたのはAさんやった。


「今年はマネージャー応募しないから安泰や思ってたんやけど」


北さんがそう言ってAさんを宥める為に歩き出すのを治が止めた。


「俺とツムが行きますから北さん休んでてください」
「は？俺も？」
「なんならお前だけ行け」
「はぁ！？喧嘩売っとるんか！？」
「お前が適任やろ、あーゆーんは」


確かに、俺が行くのがいいんだろうが滅多に怒らないAさんも新鮮だからちょっとだけ楽しんでたのに、とブツブツ文句を言いつつもAさんのところへと向かう。
北さんからも「早よA宥めてやってくれ」と言われた。


「Aさん、代わりますよ」
「侑、休んどきって」
「北さんに早よ何とかせぇって言われてきたんでええですよちょっとくらい」


本当は俺たちの為に怒ってくれるAさんをもうちょっと見ていたかったけど、ちゃんと練習もしたいしいい加減にせなあかんよな。


「あんたら、邪魔やから」


喧しい奴らを退け、重たい体育館のドアを閉める。
他のギャラリーにも睨みを利かせばそそくさと逃げるように出ていった。





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