記憶89 ページ44
休息時間、私は火事現場から少し離れたところにある木陰で、木に寄りかかって休んでいた。
捜索活動を眺めていると、誰かがこちらに歩いてくる音がした。
「食満さん」
振り向くと、そこに居たのは食満さんだった。
「隣、いいか?」
ここは私の私有地ではない。嫌がるなんてことするはずもないのにわざわざ了承を得る食満さんに、礼儀の正しい人という印象を抱く。
(初対面でお前呼びされたけど)
「どうぞ」
そういうと食満さんは私の横に片足は立て、片足は伸ばす体制をとって座った。
「さっきはありがとな」
具体的な事例を述べられなかったが、おにぎりの件だと判断して、気にしないでくださいと返す。
食満さんの手に注目すると少し黒くなっていた。
既に少し探していたようだ。
「見つかるといいですね」
主語のない私の言葉だったが、食満さんは理解してくれたようだ。
「家の場所が分かんないのが厄介なんだよなぁ」
そう、全焼してしまった家は十軒ほどあり、そのどれがおじいさんの家なのかが分かっていないのだ。
手紙に書くのを忘れてしまったのだろう。
「……なあ、話は変わるんだが」
食満さんは一度そこで言葉を止めると、次の言葉をなかなか発しない。
かなり言いづらそうにしているが、なんだろうか。
待ちきれなくなって、なんですか? と催促をする。
すると食満さんは意を決したように言った。
「あんたのこと、なんて呼べばいい?」
「……」
ポカーンとしてしまった。
もしかしたらあほ面を晒してしまったかもしれないくらいにポカーンとした。
ものすごく重大な話をされるのかと思っていたのだ。それなのにまさか呼び方を聞くだけだったなんて。
私は笑ってしまった。
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作者名:小学7年生 | 作成日時:2020年1月8日 20時