浅倉威/三千世界の鴉を殺す/リクエスト ページ8
昔昔、あるところに一柱の神が居た。彼女には、古事記に登場する名の知れた神のような強大な力はなかった。かつて森にあった小さな村が手厚く祀ったために森の神として生まれた、ひどく脆弱な存在であった。何十年も前に遂にその村さえもなくなり、僅かばかりあった運命に干渉する力さえも失われてしまった。もし無理して現世に手を出せば、今度こそ彼女は消えてしまうだろう。そうしなくたって、きっとあと十数年ももたない。神は信仰する者が居なければ、不必要と看做され己を保つことができないのだ。言うなれば、不老不死の透明人間である。不安定で、そこらの人間より余程弱い。彼女にできることはただ一つ、見守ることだけだった。
彼女はずっと森を揺蕩っていた。生まれてから数百年、人間からしたら永遠にも等しい、気の遠くなるような年月を。倒木があれば幹を優しく撫で、新芽があればすくすくと育つよう祈りを捧げ。迷い込む子あれば見守りそうとは分からぬよう導いた。ずっと、ずっと森の中に存在し続けた。森の守り神として人間の望み通り生み出され宿った神であるがゆえに、敷地外へ足を踏み入れることは不可能だった。
以前は村の生き残りや未だ近くに居を構える人々が参拝しにきては彼女の存在を未来へ繋いでいた。しかし時を経るごとにその回数も減ってゆき、ついには誰も訪れる者が居なくなった。時折肝試しに若者達が遊びに来たりするのみ、運が悪ければ社に悪戯をされ森を汚される。人間のそれとは異なる死生観ながら、彼女は己の”死”を予見した。そう遠からず、この実体を持たない体は朽ちてなくなるだろうと。
それからまた数年後。ある日から、まだ齢が十程の少年がほぼ毎日訪れるようになった。保護者もなく、友人もなく、たった一人で恐れることなく森を探索し、羽を休めた。
やがて少年は、彼女の住処である神社を、その背後に聳え立つ大樹を見つけた。緩やかに吹き込む風に、木漏れ日が揺らぎながらきらきらと差し込む。変色し苔に覆われた小さな神社は、誰の目から見たってみすぼらしいはずなのに、不思議と威厳を感じさせる。生命力に満ち溢れた大樹は天まで届きそうで、まるでこの神社の強大な守護者だ。そんな神秘的な光景に、少年はふと息を飲み────そして、信じられないと言わんばかりに目を見開きながら、徐に口を開く。
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深月(プロフ) - 横峯俊さん» お久しぶりです、まだ見てくださっていたのですね……！励みになります、ありがとうございます (2021年7月23日 9時) (
レス) id: 48437a73d0 (このIDを非表示/違反報告)
横峯俊(プロフ) - いつも拝見させていただいてます。いつまでも、更新は待っています！ (2021年7月20日 18時) (レス) id: e7388357bf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：水記 | 作成日時：2020年8月13日 20時
