ページ ページ28
おいで、こちらに。私にそのかわいらしいかんばせを見せて頂戴な。
惹かれてひらひらと舞い泳いできた小魚たちに、束の間の安らぎを見い出す。
「こんな能力は初めて見たなァ、何を応用した」
「強いて言うなら……軽い精神干渉かな。彼らの好む波長を作ったんだ」
指を指揮棒のイメージで振るって力の流れを断ち切ると、たちまち小さな世界は元通りになった。こういった微細なコントロールは本来私が得意とすることだ。件の計画じゃあ殆ど役に立たなかったが。
タイムジャッカーの瞬間移動特有の歪みが過ぎり、ティードが真隣に現れる。彼が遥か上を仰ぎ指先を触れさせれば、ずっと大きなひかりが揺らめいて────しかし、能力に発展する前に霧散した。魚たちもまた一目散に逃げていく。
「あら、私の特権だったかな」
「人魚姫の力という訳か」
「ロマンチックなこと言うねぇ」
気分も幾分か浮上してきた。甲羅を胸に、ウミガメのヒレを両手で揺らしながら順路を進もうとして、足が止まる。後ろから肩を抱かれて身動ぎが出来なくなった、という方が正しい。
「今度は何さ」
「それも邪魔だ、片付けろ」
可哀想なウミガメ、ライダーを押し退けるのにあんなに働いてくれたというのに。泣く泣く袋に押し戻して、視線を斜め後ろに投げかける。
さて、これでいいかい？
「そうだ、それでいい」
ティードが満足そうに頷いたと同時、拘束がするりと解ける。ただしその代わりに手が、指を絡ませる形で繋がれた。
……もしや、手を繋ぎたかっただけ？ そんな理由でカメは追いやられたのか？ もしそうだとしたら、やたらかわいいな、君。
一歩先を行くティードの顔は見えなかったが、機嫌が良いらしいことは何となく分かった。試しに軽く力を込めてみれば、強く前に引かれ隣に並ばせられた。そうだな、君の隣を約束したもの。
中々に良い雰囲気だが、ただ一つ、惜しむらくは。
「順路は逆だぜ、ティード」
君がちょっと方向音痴って所かな。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 127人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
深月(プロフ) - 横峯俊さん» お久しぶりです、まだ見てくださっていたのですね……！励みになります、ありがとうございます (2021年7月23日 9時) (
レス) id: 48437a73d0 (このIDを非表示/違反報告)
横峯俊(プロフ) - いつも拝見させていただいてます。いつまでも、更新は待っています！ (2021年7月20日 18時) (レス) id: e7388357bf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：水記 | 作成日時：2020年8月13日 20時
