ティード/Stay with You ページ24
この時代で生きていくことを決めて、早一ヶ月。戸籍やらなんやら、最低限必要な範囲で能力を使ったりしつつ、私たちは快適な生活を手に入れていた。
危惧していたライダーとの遭遇も今のところ回避できており、このまま平穏に暮らせるのではないかと淡い期待を抱いているものの、油断は禁物。世界はそう上手く回ってくれないことを、嫌という程に知っている。とはいえ引きこもってばっかりもいられないので、完全に開き直って、平気で外出しているのだが。
さてそんなある日。我々は水族館に来ていた。繰り返す、水族館である。……あまりに似合わないことは重々承知だ。しかし、今までの反動で連日暇を持て余していた最中、リニューアルオープンだなんて喧伝するのだから仕方がない。リスクが高いという懸念材料もあったけれど、変装して人混みに紛れられればセーフと無茶を押し通した。
「手ぇ繋ごうぜ、水族館デートだ」
「やけにご機嫌だな」
「君が隣に居るから、と言えば満足かい？」
「一言余計に聞こえたが」
ごたごた五月蝿い隣人の手を強引に攫った。入れ墨を隠すためのパンクロック系のロングアームカバーは、タイムジャッカー時代に着ていた服のように、黒を基調としてハトメがデザインされている。かなり派手だが彼には良く似合っていた。自画自賛になるが、良いチョイスだと思う。
緩む口元をもう一方の手で覆いながら、建物の中へと手を引いて歩いていく。
入った瞬間から、そこは別世界だった。一面の藍と無数の魚影。人工の、なのに果てしない美に息が止まる。生き物の真実の息吹に包まれるこの感動を、一体どんな言葉で表せばいいのだろう。温い、愛しい……分からない。ただ、哀しくも貴いものだと感じる。
「……ライブラリとは大違いだ」
素直に感嘆しているティード。それだけで、全てが報われた気がした。
未来には無論こんな娯楽施設は存在しないし、それどころか生き物さえほぼ絶滅してしまっている。故に、私たちは彼らをライブラリと呼ばれるデータベースでしか見たことがなかったのだ。
「ん。後ろ、支えてる」
自然と解けていた手。代わりに、綺麗な眸いっぱいに藍を宿したティードの肩を抱いて、一歩逸れた自分の元に引き寄せた。トン、とぶつかって、その衝撃で瞬きしてようやく、ティードは我に返ったようだった。
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深月(プロフ) - 横峯俊さん» お久しぶりです、まだ見てくださっていたのですね……！励みになります、ありがとうございます (2021年7月23日 9時) (
レス) id: 48437a73d0 (このIDを非表示/違反報告)
横峯俊(プロフ) - いつも拝見させていただいてます。いつまでも、更新は待っています！ (2021年7月20日 18時) (レス) id: e7388357bf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：水記 | 作成日時：2020年8月13日 20時
