ページ ページ21
「返事を聞かせてくれ」
いつか彼がシンゴにしていたように、両手で頬を包んで、さらに近距離で見つめ合った。その瞳も熱を帯びているように見えるのは、真実か、それとも虚構か。
ティードが黒に縁取られた目を伏せる。些細な仕草だけれど、それはやけに様になっていた。見慣れているはずなのに、うっかり見蕩れてしまう位には。
「……馬鹿な女だなァ、本当に。お前一人でならどこへでも逃げられたはずだ」
「そんなの考えもしなかった」
力も失って、顔もライダーには割れていなくて、なるほどそれも不可能ではなかっただろう。頭をよぎりもしなかったし、今この瞬間だって欠片も視野にないが。
「今からでも遅くは──」
否定も意に介さず、往生際悪く続けようとする五月蝿い唇に人差し指を押し付ける。いい加減、自分に向けられる執着くらい把握したらどうだ。あんなに熱烈な言葉を送ったのに、君ともあろう人が理解してないなんておかしいだろう。それとも、この期に及んで私に気を遣おうとでもしているのか。……冗談じゃない。
「逃げんなよティード。簡単だろ、君に望むのはYESの一択だけだ」
「NO、と言ったら？」
「逆に聞くが、どうしてほしい？」
意地悪な問答をしている自覚はあったが、それほどまでに本気なのだと知らしめたかった。
嘘偽りはもう十分だ。君の真実を、どうか。
「分かった」
ティードは降参の証としてぱっと両手を上げた。声も先程より幾分軽く、意識が死から生へシフトしていっていることが分かる。今度こそ私は、ティードをこの浮世に踏み留まらせることに成功したのだ。ふ、と口の端から零れ落ちたのは、安心かはたまた微笑か。
「……その言葉、違えるなよ」
「永遠に」
飾らぬ心で誓ってそっと目を細める。言葉を違えるな。この台詞が出てくる意味を、考えれば考えるほど、そこに彼の真意が込められている気がしてならない。こうして接触を許し傍に置いてくれることからして、存外君も私の事好きよな。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 127人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
深月(プロフ) - 横峯俊さん» お久しぶりです、まだ見てくださっていたのですね……！励みになります、ありがとうございます (2021年7月23日 9時) (
レス) id: 48437a73d0 (このIDを非表示/違反報告)
横峯俊(プロフ) - いつも拝見させていただいてます。いつまでも、更新は待っています！ (2021年7月20日 18時) (レス) id: e7388357bf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：水記 | 作成日時：2020年8月13日 20時
