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おかしいなぁ。わたしはとっくに死んでいるはずなんだけど、どうして今日ものうのう思考しているのかなぁ。それもこれも君が殺してくれないからだろ、メサイア。私を殺してくれるって約束したのは君なのに、死にたがる私に価値はないとばかりに見向きもしない。強い相手と戦いたいなら私なんて絶好の獲物だろうに。本気じゃないから？ 全力を出す努力はしてるけど、希死念慮が滲み出てるのかもしれないね。
参ったなぁ。これじゃ話が違うじゃないか。生きたいと願えば殺してくれるのかと思って演技してみても、妙に勘の鋭いメサイア様には毎度一蹴されてしまう。イカレ女と愉しげに吐き捨てたあれは、結局褒め言葉だったのか貶されていたのか。
浅倉威がメサイアになってくれないのなら他の参加者を、そんな考えが過ぎったのは一度や二度じゃない。が、城戸真司は気色悪い綺麗事で嫌な甘やかし方をしてくるし、恋人の為と宣いながら一人も殺せない蝙蝠は論外、弁護士は厄介事を厭って介入しないし、ピンクの占い師には憐情を向けられたから嫌いだし……後は浅倉か私で殺してしまったから覚えていない。
ねえ、メサイア。やっぱり私には君しかいないんだよ、浅倉。
「いっそ君を殺して私も死のうかな。うん、それなら怖くない気がするんだ。どうかなぁ、メサイア」
返事はない。私はそれを肯定と取り、健全に上下する胸の辺りに乗っかって、悪趣味なチョーカーが巻きつく、喉仏のくっきり浮いた首に手を添えた。両方の親指を気管の位置する中央に重ねてみる。ネットの付け焼き刃な知識によると、両側の頸動脈を圧迫すれば脳に血が回らなくなって気持ち良くなれるらしい。なら、同時に気管を塞げば案外サクッと死ねちゃうんじゃないかなって。結局こんなの自己願望の押しつけに過ぎないけどさァ、メサイアが終止符を打ってくれないのだから仕方ないじゃない。
何だか楽しくなってきちゃって、メサイアを手に掛ける背徳からくる快楽も相俟って口元が笑みを形づくる。
「メサイア、メサイア。どうか愚かなわたしをお赦しください」
そしてどうか、わたしだけの救世主になって、わたしだけを──してください。
さあ力を込めて、一思いに縊り殺してしまいましょう。
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作者名：水記 | 作成日時：2021年12月26日 23時
