【特撮短編集】Reborn Ⅹ (ページ13)

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十年前のあの日、割れたメダルを目にして塞がった胸を、部屋に駆け込んで息を殺して泣いた夜を、未だ鮮明に覚えている。多分、傷は癒えきっていない。
　そういう形で、どうかずっと残っていてくれ。もう何一つ忘れたくない。失いたくない。たとえそれが思い出のよすがでしかなくたって。

「欠けていい命なんてないのにね。アンクも、映司くんも、皆」

　無言が苦しくなって、在り来りの言葉を吐露した。客観的事実を述べただけ。心の澱は吐き出せない。

「あァ。……あいつは、とんだバカだ」

　目を伏せる。俯いた狭い視界。そこでようやく私は、アンクの足元の濡れたコンクリートを知った。彼の頬を伝う純粋な涙は、初めて知るには対象が惨すぎる、大切な人間の死へのいたみ。
　独り世界に放り出される絶望なら、私も少しだけ、知っている。
　……嗚呼。黙って見ていられるわけがないじゃないか。
　衝動的にアンクを抱き締めていた。
　泣いていい、縋っていい。生きてる私達には、その権利がある。
　無駄に高く伸びた身長にこの時ばかりは感謝した。肩を濡らす感触に場違いな愛おしさを抱きながら、当時とちっとも変わらない艶やかな金の後ろ髪を撫でる。
　どうしたらいい、と濁流に紛れた絶叫が聞こえるかのようだった。悲鳴じみた声で絞り出される映司くんの名前が痛々しくてならない。
　未熟な感情が共鳴する。
　映司くん。わかってる、わかってるよ。自己犠牲のつもりもなく、ただ目の前の人を救いたいってその一心で突っ走ってしまうのが貴方の性だって。でも、こんな結末あんまりだ。ずっと求めていたいつかの明日が、こんな形で叶ってしまうなんて、夢にも思わなかった。
　真っ当に傲慢にいのちを取り戻して、並んで歩く二人が見たかった。たったそれだけが許されないこの世の不条理が怨めしい。たくさんの人を、世界を救ってきた映司くんの、唯一と言ってもいい願いだったじゃないか。どうして、ハッピーエンドを与えてくれないんだろう。
　貴方の居ない世界は暗すぎる。世界も私という人間も、何度となく貴方に救われて、まだ、何も返せていないのに。
　背中に回される、人間に擬態したアンクの右腕。こんな時でも傷つけないようにと爪を仕舞うんだね、貴方は。映司くんの瞼を閉じる時も、わざわざ人間の手を使っていたっけ。
　……随分、優しくなった。それが誰の影響かなんて明白で、下手に面影を見出してしまうことが、今この瞬間に何よりつらい。