ちゅうをしないと出れないお部屋 ページ32
「は？」
「ガチトーン傷つく」
真っ白で何もない、どこまでも無機質で空虚な部屋。そこにぽつんと取り残されたように座っているのが、何故だか私と万丈。
それだけでも十分訳が分からないのに、先ほど流れたアナウンスのせいで余計に気分が悪い。
万丈はあてにならないし、かといってアナウンスの指示に従うのも癪だ。
「万丈、座って。大丈夫、誰もアンタとちゅうなんてしない」
「ちゅうって言い方可愛いな」
「処す」
部屋の隅っこで頭を押さえて蹲っている万丈に一瞬だけ視線を投げ、壁に耳を当てながらこつこつと叩く。ひんやりとした感触に嫌悪感を覚えたが、わがままは言っていられない。
「何してんだ？」
「黙って、聞こえない」
そう言うと、万丈は姿勢を正して口を閉ざした。これぞ正しく犬。何をしているのかが気になるようで、たまに体を揺らしてこっちを見やる姿が更にそれっぽい。
ちょっと可愛いと思ってしまった私が憎い。
「…あった」
暫くして、他よりほんの少し音の高い場所を見つけた。
「万丈。ここ、おもっっっきり殴って」
「壁を？」
「壁を」
首を傾げながらも言われた通りに壁を殴った万丈。数秒後、がらがらと殴った周辺の壁が崩れていく。
「えっ？は？こわ、壊れた？」
「強度が一定である物を作るなんて無理だからね。そこを馬鹿力の万丈に殴ってもらったってわけ」
かといって素手で壁を壊すなんてほぼ不可能なので、これは万丈のみの荒技だ。そのうち頭蓋骨とか素手で破壊しそうで怖い。
少し残念そうな万丈を見て、悪いことをしたなぁと良心が痛む。私としたところで得があるとは思えないが。
「万丈」
「…んだ」
よ、という声と同時に万丈の服を掴んで引き寄せる。それでもまだ高い彼に内心舌打ちをかまして、少しだけ背伸びした。
寄せた唇に触れた彼の頰は思いの外滑らかでちょっぴり悔しい。一瞬口付けた後、万丈を押しのけ壊れた壁に向かって歩みを進める。
振り返ると、呆然と立ち尽くす彼の姿がそこにあって、くすりと笑ってしまった。
「部屋のお題、叶えてあげられなかったからね。まあ、他意はないし、お詫びってことで」
それだけ言い残して、今度こそ部屋を後にした。
「はああぁぁ…なんだよアイツ。ほんとさあ、もう…」
きっと万丈は気づいていない。
引き寄せた私の手が震えていたことも、口付ける瞬間躊躇ってしまったことも、染まった頰を見られたくなくて、先に部屋を出たことも。
全部、アイツは知らなくていいことだ。
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星野よだか(プロフ) - ヤマダノオロチさん» ありがとうございます。詩島剛はてえてえの塊…。不定期ではありますが、これからも細々と続けていきますので、見かけた際には立ち寄ってみてくださいませ！ (2020年3月23日 21時) (
レス) id: 61486b168d (このIDを非表示/違反報告)
ヤマダノオロチ(プロフ) - 更新お疲れ様でした！相変わらず詩島剛てえてえです（´-`）。色々と大変な時期ですが、また星野さんのお話を読めるの楽しみにしてます！ (2020年3月15日 21時) (レス) id: 20ed7c05bd (このIDを非表示/違反報告)
星野よだか(プロフ) - ツキノワ。さん» こちらこそ、随分と遅くなってしまい申し訳ございませんでした！せっかく素敵なお題をいただいたのに上手く纏まらずお待たせすることになってしまい…。こんな私ですが、これからもお読みいただければ幸いです〜！ (2020年2月16日 1時) (レス) id: 61486b168d (このIDを非表示/違反報告)
ツキノワ。(プロフ) - あぁぁぁ……めっっっちゃ素敵でした……リクエストを書いていただけただけでもとてつもなく嬉しいのですが、流石星野さんで、ずっとはわはわしながら見てました……！良かったです！！！本当にありがとうございました！ (2020年2月15日 22時) (レス) id: 90ddd0d9c3 (このIDを非表示/違反報告)
星野よだか(プロフ) - ヤマダノオロチさん» そっ、そんな……くっ、この遺言、しっかり伝えておきますからね……っ(( (2019年12月24日 23時) (レス) id: 61486b168d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星野よだか(ほしのよだか) | 作者ホームページ：なし
作成日時：2019年9月27日 0時
