第9話「聴きたくなかったこと、聴きたかったこと」 ページ10
それは突然の事だった。
「Aの個性って『 鬼 』らしいぞ。」
「ぶっちゃけ怖いよな。」
「あんなチビなのに、個性怖すぎね？」
「だよなw良いやつだけど裏で何してるかわかんねぇよな。」
腰から力が抜けてゆく。
冬の放課後、教室から響く笑い声は、寒い廊下に響き渡っていた。
心ので、どこか思っていた。
自分の個性は、人々に受け入れてもらえるのか。
クラスメイトがそう思うのも、無理はないだろう。
「…教室…どうやって入ろう…。」
正直この場から逃げたかった、消えたかった、いなくなりたかった。
けれど足が動かなかった。
怖くなったのだ。
本当は、いつも一緒にいる友達、物間もそう思っているのではないかと。
「…でさー、ほんと困っちゃうよね。」
「いやそれお前のせいだろ。」
向こうから、こちらに向かっていると思われる声が聞こえる。
恐らく物間と友達だ。
咄嗟に、隣の教室に身を隠す。
今は2人に会う勇気がなかった。
「てか物間達も物好きっつうか。」
「それ思うわ。Aって性格とか別に普通だけど生活感っつうか、なんか俺らと違うよな。」
「あれ絶対小学校行ってないよな？なんか分かる。」
「出身の小学校言わねぇし絶対そうだろ。」
「物間達絶対後で愛想つかすよな。」
もう聞きたくなかった。
充分だった。
けどこれが現実だ。
これから先生きていく上で、きっとこういうことは起こるのだろう。
悪口ならもっと影で言ってくれ…。
心の中でそう思った。
そうだ、俺は結局、人間の姿、人間の心を持った化け物なのかもしれない。
物間達もこの話が聞こえていないはずがないだろう。
いつ、あいつらの話に混ざってもおかしくはなかった。
「…何話してんの。」
「げ、おい。物間来たぞ。」
物間…。
「なぁ、物間ってぶっちゃけAの事どう思ってんの？」
「おい、よせってw」
悪口を言いたい放題言っていた男子は、もう歯止めが効かなくなっていた。
「あのさ、」
響き渡る男子の笑い声を引き裂くように、
物間は発した。
「僕は親友の事馬鹿にされて黙っておくような人間じゃないんだよね。」
教室は静まり返っていた。
「君たちはさ、人の悪口をこんな簡単に言うんでしょ？君たちの方が僕は怖いよ。君らの方がよっぽど怖い。分かる？」
顔は見えなかったが、俺には分かる。
多分今の物間は、顔は笑ってるけれど、心の中が怒りに満ち溢れてドロドロしているやつだ。
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作者名：りあお | 作成日時：2018年8月26日 11時
