第2話 ページ3
こんな時、自分はなんと言えばいいのだろう。
話し方なら知っている、言葉なら知っているはずなのに、口から声が出ない。
その様子を察知したのか、少年はAの顔を覗き込む。
「何か気にしてる？傘なら別に貰っていいから。僕の家すぐそこだし。」
「…ｯ。」
色々と申し訳ない思いが募っていく。
「ありがとうって、言ってくれればそれでいいんだよ。」
ありがとう。
そうか…僕はこんな簡単なことさえ忘れてしまっていた…。
その言葉は、たった5文字なのに、どこか心が暖かくなる。
簡単な答えだ。
しかし、Aは、自分の凍った心を溶かすような気がした。
Aは、勇気をだして言う、
「ぁ、ありがとう…。」
それを聞いた少年の顔が、パッと、明るくなる。
「どういたしまして。ていうか話せるじゃん。
ほんとびっくりした。」
自然と、Aの顔も笑顔になった。
心の底から笑ったのは、多分、亡くなった母親と過ごした時以来だろう。
「じゃ、僕も濡れてるし帰るね。」
「ぁ…。」
そう言って、少年は足早にかけていく。
名前を聞く暇すらなかった。
Aは、ただただ、少年の後ろ姿を眺めていた。
急に、少年がこちら側を振り返る。
「次は遊ぼうねー！！！」
少年が大きくこちら側に手を振る。
Aはつられて、手を振った。
「うん！！！」
自分でも驚くほどに、自然と声を出していた。
今日はなんていい日なんだろう。
次外に出れる時、また会えるだろうか。
「僕も家に帰るか…。」
ほんとうは帰りたくなかった。
だが、あの少年と会ったことで、少し、足が軽くなった気がする。
あの少年と会えることを願うのが、Aにとっての、新しい楽しみとなった。
しかし、後に2人の関係は大きく変わることになる。
それが吉と出るか、凶と出るか、今はまだ、
その未来は誰も知らない。
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作者名：りあお | 作成日時：2018年8月26日 11時
