第10話【帆凪藤四郎】 ページ10
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雲一つない晴天と暖かい気候が本丸を包み、いい洗濯日和のお昼過ぎ。非番の刀が縁側で陽に当たりながらお茶を啜り、仕事がある者は内番に精を出すいい日だった。
「ああぁぁあああああぁあ」
またもや審神者の悲痛な叫び声が本丸に木霊する。最近やってきた刀たち……それこそ昨日やってきた長脇差の兄弟の紅は何事と振り向くが、刀剣の増えてきた近頃は古参と呼ばれるようになった帆凪にとっては最早日常である。
「主様、また実装刀剣呼び出すのに失敗したんだなぁ……」
やれやれ、と溜息を吐き洗濯籠を持ち上げると、今度は悲鳴が聞こえた方向から「粟田口ぃぃいいいいいいい!!!」といったい誰を指す呼び名なのか全くわからない叫び声が響いてくる。
まあ号の方で呼ばないということは刀派粟田口全員集合というわけなので、四寸も自分より大きい兄弟の手を引っ張って鍛刀部屋へ急いだ。途中で流石の機動で爆走していた小桜とも合流する。
「主様ー。刀派粟田口、ただいま馳せ……は?」
参じました、と続けるはずだった言葉は喉の奥に引っ込んだ。ぴん、と空気が張り詰める。ここに居る刀剣は誰も動かない中で、鍛刀後はいつもorzポーズの審神者だけがコロンビアポーズをキメて飛び跳ねていた。
そんな審神者の脳内状況を心配する前に、帆凪たちはただ、まっすぐ目の前の太刀を呆然と見つめていた。
「よぉ、甥ども。見ねぇうちにちっこくなったのとデカくなったのが居るなぁ」
ちっこくなったのは勿論薙刀から長脇差に磨りあげられた紅のことだし、でかくなったのは付喪神として成長した自分たちのことだし、様々なことを暗示している(立ち位置では)叔父の皮肉めいた発言に苦言を示す間もなく、帆凪は篠村に飛びついた。
「篠村叔父上っ!」
「改めて篠村国吉だ。長ぇこと人の暮らしに寄り添ってきたから料理掃除洗濯諸々全部できるぜ。だが戦にはあんまり出てねぇんだ、悪りぃな」
「初期刀の岳丸だ。家事ができるのは非常に心強い、これからよろしく頼む」
おう! と太陽のように笑った篠村は……ややあって、困ったように腰の方に目を向けた。
「帆凪、そろそろ離れろよ。見てみろ小桜はちゃんとあっちで座ってるぞ」
しがみついた帆凪は何も言わない。それが無言の拒否であることを篠村は弟経由でよく知っていた。いつもは割としっかり者の帆凪のその姿に岳丸さえも困惑する中、篠村の溜息が空気に溶けた。
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赤信号(プロフ) - 更新終了しました。 (2019年4月23日 0時) (レス) id: 674c6f2783 (このIDを非表示/違反報告)
赤信号(プロフ) - 更新します。 (2019年4月21日 23時) (レス) id: 674c6f2783 (このIDを非表示/違反報告)
学園運営者(プロフ) - 終わりました。 (2019年3月30日 11時) (レス) id: 671ce60c1e (このIDを非表示/違反報告)
学園運営者(プロフ) - 連続で申しわけありませんが更新します。 (2019年3月30日 10時) (レス) id: 671ce60c1e (このIDを非表示/違反報告)
学園運営者(プロフ) - 終わりました。 (2019年3月10日 23時) (レス) id: 671ce60c1e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:時の政府(ニセモノ) x他8人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tekitouni
作成日時:2019年1月23日 0時