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嬉しさと興奮は、フワフワした感じに変わって、最後には本当に足元がフワフワしていた。喫茶店に入って、せっかく先生にレッスンしてもらってるのに、頭がボーっとして上手く覚えられない。
「…元太?大丈夫?」
先生やっと呼び捨てしてくれるようになったな、なんてぼんやり考えていたら、先生の手が俺のおでこに触れた。
「うわ…!元太、熱あるよ、!」
「へ?」
もう帰ろうって言う先生の声も、ちょっと遠くに聞こえる。タクシーを呼ぼうとするのは何とか阻止できたけど、もう話すのもしんどくなってきた。
「せんせ、ごめんね…」
「謝らないで。俺の方こそ、気づけなくてごめん。最近、ちょっと頑張りすぎだったよね。」
先生に支えられながら、俺は家までの道をゆっくり歩いた。あと少し、あと少しって自分に言い聞かせるけど、足はどんどん重くなって息も苦しくなっていく。
本当にあと少しってところで、俺の足はついに動かなくなってしまった。
「元太、ここからでもタクシーで行こう。もう限界だよ。」
「でも、お金…」
「俺が出すから。そんなのより、元太の体が大事。」
それからタクシーを待つ間、先生は何回も俺に謝ってきた。俺が背負ってあげられればいいのに、ごめんねって、なぜか泣きそうな顔で。
先生がそんな顔をするから、俺まで泣きたくなる。俺は必死に唇を噛みながら、倒れそうになる体を先生に預けていた。
それからどうやって家に帰ったのか、よく覚えてない。気づいたときには、俺は自分の部屋のベッドで寝ていて、先生はリビングから持ってきたらしい椅子に座って俺のことを見ていた。
「せん、せ…」
「元太、大丈夫?さっき海人と連絡ついて、もうすぐ帰ってくるって。」
「え、でも、今日大事な打ち合わせだって…」
「予定より早めに終わったって言ってたよ。」
「……嘘。」
嘘だ、そんなの絶対嘘。海人の、優しい嘘だ。
先生の顔が、ぐにゃぐにゃ歪んで見える。耳に温かいのが流れてきて、止まらなくなった。
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おさと(プロフ) - 6chanさん» 6chan様、コメントありがとうございます!短編のシリーズからお読みいただいていたとのこと、とても嬉しいです😭引き続き、こちらの作品にもお付き合いいただけますと幸いです! (2023年3月9日 22時) (レス) id: de6645fa3a (このIDを非表示/違反報告)
6chan(プロフ) - 短編の時から好きなお話でした。が、まさか、更に障害系要素が増えて、更にこれからが楽しみです! (2023年3月9日 0時) (レス) id: f726c31193 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2023年3月4日 19時