6 唄う(Orange) ページ28
今日はそろそろ限界かな、と思いながら、3曲目の最後のサビを歌い上げる。
平日の昼間だからか、今日は聴いてくれている人自体が少ない。1人1人の顔を見ながら歌い終えると、パラパラとまばらな拍手に包まれた。
ありがとうございました、と頭を下げて、また1人1人の顔を見る。今日はいないみたいだ。たまにこの駅前の遊歩道で歌っていると、目をキラキラさせて俺の歌を聴いてくれる、黒髪のイケメンさん。
かわりに、今日は少し気になるお客さんがいた。いい意味じゃなく、どっちかと言えば悪い意味で気になる人。
ふらりと俺に背中を向けて歩き出したその人を、俺は慌てて追いかけた。
「…あの！」
ダメだ、無視されてる。少しも立ち止まるそぶりを見せないその人の腕をつかんで、俺はもう一度声をかけた。
「あの、すいません！」
その人は、驚いた顔でこっちを振り返った。重ための前髪の下に、眠そうな目がのぞく。スラっとしていて遠目には180�僂�らいありそうに見えたけど、そこまではなさそうだ。
「あの、俺の歌、あんまりよくなかったですか？」
「…？」
「拍手とか、手拍子とか、なかったんで…。いや、別に責めてるわけじゃなくて、ただ意見聞きたいっていうか、」
途中で、その人は「待って」と言うように手で俺を制した。俺が口を閉じると、そのまま素早くスマホに文字を打つ。
『俺、耳が聞こえなくて。ゆっくり話してもらえれば、口の動きで分かります。』
「あ…」
ごめんなさい、と頭を下げて、これも聞こえてないんだと焦る。俺はギターケースを置いてから、右手の親指と人差し指で眉間をつまむような動きをして、その手を垂直に立てた。
ごめんなさい、の手話。通じたかな？
『手話、できるんですか？』
『ちょっとだけ。』
眠そうだった目が輝きだしたのを見て、ちゃんと通じたんだと実感する。そういえば、あのイケメンさんも手話を使っていたな、と俺はふと思い出していた。
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おさと(プロフ) - 6chanさん» 6chan様、コメントありがとうございます！短編のシリーズからお読みいただいていたとのこと、とても嬉しいです😭引き続き、こちらの作品にもお付き合いいただけますと幸いです！ (2023年3月9日 22時) (
レス) id: de6645fa3a (このIDを非表示/違反報告)
6chan(プロフ) - 短編の時から好きなお話でした。が、まさか、更に障害系要素が増えて、更にこれからが楽しみです！ (2023年3月9日 0時) (レス) id: f726c31193 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おさと | 作成日時：2023年3月4日 19時
