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「…うわ、懐かしいな〜。覚えてる?ここで、まつくの退院祝いやったの。」
「退院祝いっていっても、ドリンクバーおごってもらっただけだったけどな。」
「しょうがないじゃん。施設の小遣い、全然足りないんだから。」
あの頃みたいに2人であーだこーだ言いながら、俺たちが育った児童養護施設の近くにあるファミレスの席に座る。2人とも大人になったのに、頼んだのは相変わらずドリンクバーだった。
「……あの、さ。」
「うん?」
「今って、どんくらい見えてる?」
「うーん………このくらい、かな。」
そう言って遮光眼鏡をテーブルに置くと、俺は身を乗り出して思いきりまつくの方に顔を近づけた。ドアップになった顔が、あっという間に驚きに染まる。
「うわ、キスされるかと思った…!」
「しねえよ(笑)。」
そう言って、また2人で笑い合う。席に座り直す前に、俺は笑ったときにクシャっとなるまつくの目元をしっかりと見た。
「…それにしても、よかったよ。まつくが『病院行け!』って言ってくれて。じゃなきゃ俺、死んでたもんね。」
うん、と言うのとは少し違う、うーんとうなるような声が、正面から聞こえる。腕を組んだみたいで、まつくの上着がかさかさと音を立てた。
「こう言ったらあれだけどさ、なんか嫌な予感してたんだよ。目がかすむって言われた時から。頭まで痛いって言われたときは、もう黙ってられなかった。」
そっか、と言いつつ、俺は内心まつくの鋭さにびっくりしていた。だって、あの頃の俺は、ストレスのせいかな、なんて軽いことしか考えていなかったから。
まさか頭の中に腫瘍ができてるなんて、あの時は少しも想像していなかった。
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おさと(プロフ) - 6chanさん» 6chan様、コメントありがとうございます!短編のシリーズからお読みいただいていたとのこと、とても嬉しいです😭引き続き、こちらの作品にもお付き合いいただけますと幸いです! (2023年3月9日 22時) (レス) id: de6645fa3a (このIDを非表示/違反報告)
6chan(プロフ) - 短編の時から好きなお話でした。が、まさか、更に障害系要素が増えて、更にこれからが楽しみです! (2023年3月9日 0時) (レス) id: f726c31193 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2023年3月4日 19時