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―しず、走れ!





コートを駆け抜ける俺の耳に、たしかにその声が聞こえた。学生の頃、バスケ部の試合を観に来たときと同じ、しめの声。





今まで、何度も俺の背中を押してくれた声だ。







今、あのころコートを走り回った2本の足はないけれど。でも、俺は今この腕でまたコートを走れている。







届け、届け…







「届け!!」





ボールが、手を離れる。俺の耳には、ブザーの音じゃなくボールがゴールのネットをくぐる音が聞こえていた。













「閑也〜!なんだよお前、ブザービートとか全部持っていきやがって!」





口では恨めしそうに言いつつ、ロッカールームに戻ってきたチームメイトが嬉しそうに俺の頭をめちゃくちゃに撫でまわす。





「俺だってびっくりしてんだよ!学生の頃だって、ブザービートなんか経験したことないのに。」





試合に勝った興奮で、なかなかみんな俺を離してくれない。なんとかチームメイトの輪を抜けて自分の荷物を手にできたのは、だいぶ時間がたってからだった。









「…え!?」





特に何の期待もしないで、バッグから出したスマホ。画面には、しめからのメッセージを知らせる通知が表示されていた。





ボイスメッセージが一件。慌てて、スマホを耳に押し付ける。





『しず、めっちゃかっこよかった!マジヤバかった!おめでとう!』





それから少し間があいて、『見せてくれてありがとう』としんみりした声が鼓膜に伝わる。それで、メッセージは終わりだった。







俺はスマホを握りしめたまま、夢中でコートに戻った。上を見上げて観客席を見回すけど、もうほとんど人影はない。









しめ、俺聞きたいことがあるんだ。なんであの美容室、辞めたんだ?あんなに仕事好きだって言ってたのに。なんで、ボイスメッセージなんだ?文字だけで送ることだって、できたはずのに。





深い理由はないのかもしれない。でも、もし何かあるなら、俺に話してほしい。たくさん迷惑かけた分、今度は俺が助けになるから。どんな場所にだって、駆け付けるから。







「やっぱり会えてよかった」と言った、宮近さんの穏やかな笑顔が頭の中に浮かぶ。俺は、スマホに声を吹き込んだ。





「…しめ。」







―もう一度、俺と会ってほしい。














「4 駆ける」fin.

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おさと(プロフ) - 6chanさん» 6chan様、コメントありがとうございます!短編のシリーズからお読みいただいていたとのこと、とても嬉しいです😭引き続き、こちらの作品にもお付き合いいただけますと幸いです! (2023年3月9日 22時) (レス) id: de6645fa3a (このIDを非表示/違反報告)
6chan(プロフ) - 短編の時から好きなお話でした。が、まさか、更に障害系要素が増えて、更にこれからが楽しみです! (2023年3月9日 0時) (レス) id: f726c31193 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:おさと | 作成日時:2023年3月4日 19時

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