第303話 思い出なぞる ページ25
『ともかく、元気そうでよかった』
「お前もな。あの時起こった出来事、何となく察しはついているが……」
『そう……あやめが代わりに。琥珀の力、俺の中には残っていなかったけれど、あやめの中に戻っただけらしいんだよね』
愈史郎くんが不思議そうな顔でこちらを見た。
俺も まだ完璧に理解した訳ではなかったけれど、持ち合わせた語彙力を全て注いで説明をする。
『琥珀の力と梛の力は本来別々にあるはずのものだった、って。それが……元に戻っただけだ、って。だからあの時、力を使ったのは俺じゃなくてあやめで』
「……」
『この世界の俺の肉体が死ぬ瞬間、あやめが俺の肉体に入った。そして意識ごと死んでしまう0コンマ数秒前に、琥珀の力を使った』
『そして、俺が再びその肉体に戻る前に、1度死体と化したそれを君が生き返らせてくれた。』
複雑そうな顔だった。
俺を救ったのは、確かに、あやめだ。
でも____君がいなかったら、それでも助からなかったと思う。
『君は命の恩人だ。ありがとう』
「……そうだな。そして、それ以上にあやめはお前の恩人だ」
『それは、そうだけど!でも君にも感謝してて……』
「分かってるよ。俺への感謝は伝わってる。それから、それ以上に大きすぎるくらいのあやめへの感謝と罪悪感も。」
『……っ』
今度は俺が表情を歪ませる番。
罪悪感、か。
俺も、他の人も、1度も口にしなかったそれを……彼は遠慮することなく口にした。
正しくその通りだった。
「何もおかしくない。助けられて喜ぶことも、感謝することも、ほんの少し、後ろめたく思うことも。」
『……、』
「感謝の度合いに、大きさに違いがあることも、口にしないと耐えられないくらい抱えてしまうことも」
『…ねぇ……』
「おかしくない。」
ポン、と、頭の上に手を置かれた。
撫でられるではなく、表情も動かずに手を置かれた。
も、物置き……。
『……なんか、俺のこと泣かせようとしてない?』
「バレたか」
『こいつゥ……!!』
ブレねぇ!!励ましてくれてるがやはりブレねぇ!!!
「……向こうの世界は?大丈夫なのか」
『うん。琥珀の力があった間はね、向こうの楸さんの存在は思い出せても、どんな人だったかは覚えてなかったんだけど』
『今はよく覚えてる。こっちのあの人とは全然違う、違うけど、同じくらい強い兄さん』
『かっこいい、自慢の兄さんだから。
母さんのことも、任せられる』
少しだけ、寂しいけどね。
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リナ(プロフ) - ゆぅあ(o・ω・o)さん» 一気読みありがとうございます〜!!完結間近ですが最後までよろしくお願いします!頑張ります……! (2020年11月28日 15時) (レス) id: cb61b31578 (このIDを非表示/違反報告)
ゆぅあ(o・ω・o)(プロフ) - 昨日このシリーズの小説を見つけたのですが、はちゃめちゃに面白くて今日読破しました!これからも頑張ってください!!! (2020年11月28日 10時) (レス) id: f45915f976 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リナ | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2020年8月29日 14時