第295話 来訪者 ページ17
コンコン、と、扉をノックする音が聞こえる。
どうぞと声をかければ、薬やら湿布やらの道具を持ったアオイさんが扉を開けた。
「調子はいかがですか。痛むところは?」
『もう無いですよ。ほんと、超元気です』
「………、そうですか、……………良かった」
その声があまりにも震えているから、何も言えなくなってしまう。
俺の変わっていないところといえば、本当にダメだと思った時、何の言葉も出てこないことだ。
相手が弱ってて、自分も……弱ってる時。
自分が何と言葉をかけても、相手に響かないと、確信してしまった時。
「桜。もう咲いてるんですよ。外は見ましたか」
『そういえば見てないです。そっか、……ほんとだ』
窓からギリギリ見える角度に桜の木があった。
結構遠いけど、枝には確かに桃色の花が風に揺れていた。
「少しならお散歩もしていただいて大丈夫ですよ。許可も取らなくて大丈夫ですから。」
『……あ、……ありがとう、ございます』
笑おうと思ったんだけど。
あはは、って、せめて、声だけでも。
喉につっかえたものはやはり出てこなくて、すぐに奥にしまった。
「今日の分のお薬、置いておきますね。お大事に。」
彼女の優しい声が背中に降って、俺が返事をする前に部屋を出ていった。
窓から扉へ視線を移し振り返る。
無機質な木の扉が、四角い部屋を塞いでいるだけ。
『どこも、痛く、ないですよ』
『少しだけ、辛いけど。……俺は、ちゃんと、前を見てる』
『ねぇ、どうして、』
くしゃり。
指の隙間に髪が通る。
俯いて、真っ暗な世界が広がる。
このまま、音も、匂いも、景色も。
全部堕ちていってしまえば。
何も感じなくなれば、この心にも違和感を覚えなくなるだろうか。
『ひさぎ、さん』
『………貴方の呪いが、解けてしまった』
進む道が、見当たらない。
❁⃘*.゚
「……あ?まだ面会謝絶してんのかよ。そんなに体調が悪いのか?」
桜が舞った。
「あれ、宇髄さんじゃん」
「おー善逸。なぁ菖蒲は?まだ会えねぇのかよ」
「まぁ……うん。元気ないし、人と会って体調悪化したら良くないからって」
「箱入り娘かっての。あの神経図太男にする処置かよ」
「何か色々あったみたいだし。炭治郎は事情知ってるみたいだけど。誰だってしばらく部屋にこもったいこともあるじゃない?だから……」
「なぁ」
「ん?」
「あそこにいんの、菖蒲じゃね?」
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リナ(プロフ) - ゆぅあ(o・ω・o)さん» 一気読みありがとうございます〜!!完結間近ですが最後までよろしくお願いします!頑張ります……! (2020年11月28日 15時) (レス) id: cb61b31578 (このIDを非表示/違反報告)
ゆぅあ(o・ω・o)(プロフ) - 昨日このシリーズの小説を見つけたのですが、はちゃめちゃに面白くて今日読破しました!これからも頑張ってください!!! (2020年11月28日 10時) (レス) id: f45915f976 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リナ | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2020年8月29日 14時