第291話 消えかけた気配 ページ13
❁⃘*.゚
「子分……、アヤメ、……目を、覚ましやがれ……」
かすれた声。
炭治郎は、目を覚ました。
でもコイツは……アヤメは、腹を刺してから全く動かなかった。
まるで死体みたいだった。
俺が山で見てきた、生き物の死骸みたいな___それに、この戦いで死んでいった仲間みたいな。
生き物が死ぬところを見るくらい、何とも思わなかった。
知りもしない人間の死体を見たって、それを埋葬する意味すらも、分からなかった。
「うぅ……」
「どうすりゃ、いいんだよ……」
仲間が死ぬのが辛いことを、初めて知った。
もう味わいたくないと思った。
そんで、せめて、少しでも____そんな痛みを減らしたいと思った。
「愈史郎!脈が小さくなってる……!」
「うるさい黙れ分かってる!」
嫌な想像ばかりが頭をぐるぐる回っていた。
支えられた炭治郎が、アヤメを囲むこっちへ近づく。
カナヲが無事で良かったという安心感はあったようでも、アヤメの無事は、まだ、分からなかった。
アヤメは、俺の子分に相応しいくらい鋭い奴だ。
小さな異変にすぐに気づいた。
少し変なくらいだった。
俺たちよりもずっと色んな経験をしてるみたいに、十何年も多く生きてるみたいに。
それを言ったら、そりゃそうだ、って言って笑った。
アヤメは、変な奴だ。
変な奴で、どうしようも無い奴だ。
俺を褒めて嬉しそうに笑う。その時の、肌を覆うみたいな温かさ。
今それを思い出しても、胸のどこかが酷く痛むだけだった。
少しずつ、アヤメの気配が無くなっていくように薄れていった。
地面に染み込んでいく赤い血が、濃くなっていく。
仲間が治療してるっていうのに、血が止まらない。
アヤメの羽織を握る手に力が籠って、シワでぐちゃぐちゃになっていた。
「俺の、せいで……」
隣に来た炭治郎が、怠そうな体を押してアヤメを見つめて呟いた。
泣きそうな顔。揺れていた。
「お前のせいじゃねぇ」
「伊之助、」
「アヤメは自分で選んだだけだ、コイツのせいだ」
炭治郎に、言っていたのか。
自分に、言い聞かせていたのか。
ピクリとも動かないアヤメに、責め立てる言葉をかけたかったのか。
………もう、分からない。
「………ぁ、」
善逸が握っていた手がぴくりと動いた。
それから、声が、漏れるみたいな声が、聞こえた。
「「「菖蒲!!」」」
三つの声が、重なった。
❁⃘*.゚
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リナ(プロフ) - ゆぅあ(o・ω・o)さん» 一気読みありがとうございます〜!!完結間近ですが最後までよろしくお願いします!頑張ります……! (2020年11月28日 15時) (レス) id: cb61b31578 (このIDを非表示/違反報告)
ゆぅあ(o・ω・o)(プロフ) - 昨日このシリーズの小説を見つけたのですが、はちゃめちゃに面白くて今日読破しました!これからも頑張ってください!!! (2020年11月28日 10時) (レス) id: f45915f976 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リナ | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2020年8月29日 14時