第290話 止まりかけた音 ページ12
❁⃘*.゚
「炭治郎、だめだよ」
「早く戻ってきて」
ぎゅう、と。
炭治郎の背中に刺されたのは、恐らく鬼を人間に戻す薬だと思う。
菖蒲が大量に血を流したことにより、炭治郎の動きは大幅に鈍くなった。
その隙を狙って、カナヲちゃんが薬を投入した。
おかげで、カナヲちゃんの方に炭治郎の攻撃は回らなかった。
「(でも、菖蒲、が、)」
俺の手の中でピクリとも動かない菖蒲の指先は、徐々に冷たくなっていく。
「止まった……か?」
「急いで救護に回るぞ!炭治郎とカナヲちゃんと、菖蒲の救護だ!」
距離をとっていた隠の人達が治療の道具を持って駆け寄る。
俺の手にまで到達した赤い血は、一向に止まる気配が、なくて。
「ねぇ菖蒲ぇ!お願いだからさぁ、ねぇ……!!」
「アヤメ!さっさと起きやがれ!」
何とか処置をしてくれているけど、顔色はどんどん悪くなっていくし、これは、本当に、___
「陰を作れ!俺がやる!」
近くの建物から出てきたのは、俺の手当もしてくれた鬼の__愈史郎、だったか。
隠の人が日陰を作るようにして、その日陰で処置を始める。
菖蒲の手をギュッと握り、視線を外す。
炭治郎とカナヲちゃんの手当は終わったみたいだ。
どちらも怪我はしていたけど、深い傷では無いみたいで。
「(って言っても、炭治郎は薬が効いたかも分からんし……!)」
隣の伊之助も見るからに焦っている。
あぁ、もう。
俺まで手が冷えてきた。
不安と、緊張と、じわじわと伝わる彼の手の冷たさのせいで。
「なんで、……なんだよぉ………」
いっつも菖蒲ばかり。
当たり前みたいな自己犠牲。
菖蒲が報われる日は、本当に来てくれるのか。
俺が泣いてたら、こうやって縋り付いてたら、さぁ。
菖蒲は、いっつもちょっと嫌そうに笑うじゃんか。
力を込めて引き剥がそうとするけど、女の子みたいに弱い力だから、全然出来てなくて。
俺が弱音を吐いても、君は、恐れの知らない背中で俺の手を引いてくれる。
俺が死にかけてた時にかけてくれた菖蒲の言葉が、善逸、って、呼んでくれたあの一瞬が、
耳に残って、離れないん、だよ。
「お兄ちゃん!!」
禰豆子ちゃんの声が辺りに響いた。
炭治郎が、目を覚ました。
「……ごめん、怪我、……大丈夫……か……」
その声を聞いて、辺りの空気が明るくなった。
喜びの声が響く。
俺と伊之助の、炭治郎に向け かける声。
よかった。
本当に、よかった。
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リナ(プロフ) - ゆぅあ(o・ω・o)さん» 一気読みありがとうございます〜!!完結間近ですが最後までよろしくお願いします!頑張ります……! (2020年11月28日 15時) (レス) id: cb61b31578 (このIDを非表示/違反報告)
ゆぅあ(o・ω・o)(プロフ) - 昨日このシリーズの小説を見つけたのですが、はちゃめちゃに面白くて今日読破しました!これからも頑張ってください!!! (2020年11月28日 10時) (レス) id: f45915f976 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リナ | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2020年8月29日 14時