第120話 初めて流した ページ27
❁⃘*.゚
俺が自分の体を顧みずに技を放ったから、炭治郎が咄嗟に止めたのだ。
それから炭治郎は、逃げる鬼に対して声を張り上げた。その言葉に鬼が止まることも無く、ただ、この戦いは煉獄さんの勝利だと言い張る声が虚しく響いた。
『(………身体が全然動かない)』
脱力して地面に放り出された自分の身体。
今度こそ呼吸に集中して、なんとか意識を保つ。
その呼吸すら苦しい。
「こっちにおいで、最後に少し話をしよう」
「……」
彼の瞳から、涙が零れ落ちた。
……俺は、この力を持ってしても。
涙が出てこない。悔しさよりも、自分を恨む心が大きいからだろうか。
薄れた視界に映る、戦い抜いた彼の姿。
「……猪頭少年、尾上弟に肩を貸してやってくれるか」
「!」
その言葉に、何も言わずにこちらへ走り寄ってきた伊之助くん。
肩を貸してくれる、と言っても、完璧な脱力状態だから引き摺られてる部分もあるが。
炭治郎が探っていた、ヒノカミ神楽の話をした後、煉獄さんはこちらに視線を向けた。
「……失うのが、怖かったな」
『……』
「最後まで、諦めず戦ってくれありがとう。……尾上弟」
怖かった。
楸さんは、死んだ。
俺にその姿を見せることも無く、俺が救う術もなく。
だけどこの人は、俺の目の前にいた。
ここにいた。救えたはずだった。
この人が倒そうとしたあの鬼を、殺せていたかもしれない。
『……め、なさ……っ、』
ようやく、涙が零れた。
傷口が痛い。呼吸が苦しい。
俺がもっと強ければ、俺が理性的に戦えていれば。
この身体が持つ力を、最大限に引き出せていれば。
こんなに短い間に、何度後悔したことか。
「胸を張って生きろ。」
「己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと。」
「心を燃やせ。歯を食いしばって前を向け。」
「足を止めて蹲っても、時間の流れは止まってくれない。共に寄り添って悲しんではくれない。」
後悔なんて、意味が無い。
分かってる。だから俺は、あの夢を振り切れたはずだ。
「俺がここで死ぬことは気にするな。柱ならば、後輩の盾となるのは当然だ。」
「柱ならば誰であっても同じことをする。若い芽は摘ませない。」
「竈門少年。猪頭少年。尾上少年。黄色い少年。」
「もっともっと成長しろ。そして今度は君たちが鬼殺隊を支える柱となるのだ。」
「____俺は信じる。君たちを、信じる。」
視界が薄れて、滲んで、その姿が見えない。
ああ、悔しい。
悔しい、なぁ。
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リナ(プロフ) - モノクロさん» コメントありがとうございます!!泣いていただけたら本望です!()ギャグ混じえつつ急にシリアスぶっ込みますので温度差にお気をつけください!そして夜に寝ましょう!不規則生活!!() (2019年10月28日 10時) (レス) id: bdf7177f23 (このIDを非表示/違反報告)
モノクロ - こんなん…泣く、泣いてしまう(号泣)菖蒲くんもあやめくんも大好きですなんなら全員好きですけどねッ!!今後の展開が楽しみで昼しか寝れないなぁ!← (2019年10月28日 1時) (レス) id: 6f839a2af7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リナ | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2019年10月16日 17時