傷を抱えた私達は (ページ10)

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目の前にはあの日以来会っていなかった草川拓弥くんがいて、私をじっと見ていた

なんで草川くんが私に話しかけているのだろう？

『えっと、暇ですけど…？』

よくわからなかったが質問された内容に答えると私の右手首をつかみ

「じゃあ、着いてきてよ」

てくてくと体育館の出口まで引っ張っていく

なんと強引な！と思いながらも颯爽と歩いていく姿はこの場所から救い出してくれる王子様にも見えた

でも、歩くスピードが早くて慌てて彼の名前を呼ぶ

『ちょっと草川くん！待ってよ…』

草川くんは不思議そうな顔をしながら歩くのをやめて、掴んでいた手首を離し私の方を振り返った

「あれ？俺名前言ったっけ？」

あ、しまった。名前は杏から聞いたのだから本来の私なら知らないはずだったのに

それに、この間の出来事覚えてなさそうだし…

どうにか切り抜けようと頭をフル回転させ

『いや、あの…体育着に名字書いてあるから』

と、苦し紛れに言った

彼はそれで納得したらしく、またてくてくと歩いていく

手首を離されたのだからついて行く必要はないのだけれど、また1人になるのが嫌で彼について行った

しかし、彼に置いていかれないように屋上まで続く階段を駆け上がると息が上がってしまった

たったこれだけで鼓動は早くなり息が上手く吸えない

本当にこの体使えないな…

屋上の扉の前で下を向き呼吸を整えていると草川くんにぎゅっと抱き締められ、背中をさすられる

どれぐらいの時間そうしていたかわからないけれども、だんだん呼吸が落ち着いてきてゆっくりと彼から離れる

『ありがとう』

お礼を言うと少し照れた顔をして扉の方を向きガチャりとドアノブをまわす

草川くんに続いて屋上へと1歩足を踏み入れるとそこは青空がどこまでも広がっていて心地よい風が私に向かって吹き抜けた

まるでこの場所に受け入れられたみたいだった

本来立ち入り禁止の場所だから初めてきたけれどもこんなにも素敵な場所ならもっと早く来れば良かった