♯ ページ19
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その日はオープンキャンパスが終わり、学科紹介お疲れ様の飲み会が入っていた。
来週はサークルメンバーとスパーランドのプールに行く予定がある。明日はゆっくり眠って水着を見に行こうかなあ。楽しみが多いって素晴らしい。
熱帯夜の23時、アパートの階段を上って通路へ入る。
『えっ……』
そこで足が止まった。自分の部屋の前で男が座り込み、うたた寝をしている。
『誰……?』
聞こえないように呟いたはずが聞こえていたらしい。彼は起きて顔を上げる。見覚えのある顔に私は背を向けて走って階段を下りた。
「待って!」
でも現役高校生と大学生、男と女とではどちらも前者の方が強い。すぐに追いつかれて腕を掴まれた。
「逃げんな!」
『逃げとらん!』
「じゃあ何で……」
久しぶりにまともに顔を見る。ハッとした。どんなことがあっても笑顔を絶やさない彼……亮が、怒ったりしない亮が……、泣き出しそうな顔をしている。
顔に力を入れて涙が溢れないように耐えている。
「何で、俺のこと、避けてるの……?」
声が震える。腕を掴む手の力が強くなる。20年近く一緒にいるのに、そんな顔で動揺するのは初めてだった。
『……ごめん、部屋で話そう』
ここで話しても長くなる。夜は遅く近所の方々の邪魔にもなる。頷いて手を離してくれたからおいで、
と少し距離を取って部屋へ向かった。
会話のない2人きりの数秒間はやけに静かで、場違いにカラスの鳴き声が響いて聞こえた。
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何を考えているのか分からない。女々しいけど、Aはどうして俺と付き合ってくれたのか。この数ヶ月、自問自答し続けたけど答えは出なかった。
告白した日、あの時の照れた顔は演技だった? 本当は好きでもなんでもなかった?
電話をかけてもメールを送っても、出てくれないし返信がない。何度も拒否された。最後の大会は手紙1枚で済まされてしまった。挙句の果てには……、自然消滅したなんて言い出す。
増田に慰められた時、頭の中が真っ白になった。着信は拒否され、連絡を取ることさえ許されない。俺は別れたつもりなんてない。自然消滅だなんて考えたこともなかった。
Aの中で俺は終わった存在だった……?
『はい、お茶』
透明なグラスの中で氷がカラン、と音を立てる。数ヶ月ぶりのAはやけに大人びて見えた。
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あおやなぎ(プロフ) - AYN98036518さん» 初めまして、ありがとうございます! これからもこの作品をよろしくお願いします(^^) (2021年1月5日 15時) (レス) id: 098b1a6f9b (このIDを非表示/違反報告)
AYN98036518(プロフ) - 面白いです!面白すぎます!頑張って下さい!続き楽しみに待ってます!!!!!!! (2021年1月4日 12時) (レス) id: 12406a430a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あおやなぎ | 作成日時:2019年5月14日 22時