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magic 41  九頭竜side ページ13

キンコン、と放課後を告げるベルの音がした。





「もう、こんな時間か」



短くため息をついて絵筆をパレットの上に乗せる。









あれから、・・・・赤間と話してから、俺はずっと自室にこもっていた。





暗くてだだっ広い、まるで俺の心を現したかのような部屋。



希望も未来も何もかも摘み取られてしまい、心の奥には隙間風ばかりが吹いている。








「そういや・・・・」



放課後って、言ってたな。





演劇部と天文部の対抗戦。



赤間とアイツの試合。





もう、能力はうまく使いこなせるようになったんだろうか。



彼女の心に俺が植えつけたんだろう傷は、癒えたのだろうか。





考えても仕方のないことが、頭に浮かんではまた消えていく。








“気になるの?”



そう心の奥で声がした気がして、思わず椅子を蹴り飛ばした。






違う。



気になってなんかいない。





「別に俺はもうあいつのことなんてなんとも思ってねえんだよ・・・・!!」





口では強く言いながらも、窓ガラスに映る自分の顔はひどく歪んでいて。



強くかみしめた唇からは、真っ紅な血が滲んでいて。





何だが自分の惨めさに、笑いがこぼれた。









知っている。




俺があの日から、前にも後ろにも進めていないことくらい。



あの日あの瞬間に戻れたら・・・なんて、何度思ったか分からない。






部屋の隅に置かれた小型の冷蔵庫には、たくさんの同じ銘柄の牛乳。



・・・そして、もう賞味期限が何年も前に切れている、コーヒー牛乳の瓶。






捨てられなかった。





もしかしたら明日彼女がここにきて、これを欲しがるかもしれない。



そんな淡い期待に縋り続けて・・・もう何年の年月が経ったのだろう?








「だっせえ、」



くくっ、とのどの奥でひきつった笑いが漏れる。







前に進むのは難しいのに、堕落していくのはこんなにも簡単だ。






「もう好きにやれよってことで」



つぶやいた時、一つの電子音が闇を切り裂いた。







しばしの間迷ってから、仕方なく俺はそれを耳に当てる。






「・・・・なんだ、二宮」





どうせ、くそどうでもいい話なんだろうな・・・・・そう思っていたのに。





流れ込んできた音声の意味は、俺の思考を限りなく無にする。







「××××××」









「・・・・意味、わかんねえよ・・・!」





狭くて暗い部屋を抜け、俺は外の世界へと駆け出していた。

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友っち - 初めてのコメントです。最近読み始めたので、失礼かもしれないですが、どんなに遅くても、作品を読み切りたいです。頑張ってくださいね! (2015年11月30日 16時) (レス) id: be4f9f14c9 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗 - 初めてのコメント失礼します。私はこの作品を読みきりたいです。応援しています (2015年9月7日 22時) (レス) id: 1b9eafbb53 (このIDを非表示/違反報告)
鎖奈 - 沢山のコメントがいただけて、驚く半面本当に嬉しいです。最近ようやく時間が作れるようになってきましたが、まだ小説を書けるほどの余裕はなくて…。もう少し、時間をください。すみません。 (2015年8月13日 18時) (レス) id: fb8f65ae95 (このIDを非表示/違反報告)
のえる@遙 - お久しぶりです(笑)スマートフォンからのコメントになってしまいましたが…。私としては鎖奈さんの手で終わらせてほしいと思ってます。高校が大変なのは十分分かっているのですが、お願いします!受験合格いたしました(笑) (2015年8月11日 14時) (レス) id: 2c50856b56 (このIDを非表示/違反報告)
月片 - 私は、いいとかわるいとかの基準がわからないけど私にとってはとてもよい作品なので最後まで読みたいです (2015年7月16日 22時) (レス) id: f00d58d32a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鎖奈 | 作成日時:2014年4月13日 12時

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