第１６話 当たり前の優しさを�� ページ35
悟はAをベッドに寝かせると、優しく布団をかけた。
『何かいるもんある？』
水なり食いもんなり、欲しいもんを答えればいいだけなのだが
そんな優しいことを聞かれたことがないAは、何と答えたらいいか分からない。
Aはただ、ベッドのそばに立っている悟の手を握った。
「……行かないで…」
悟は、深く息をつきながらベッドの端に腰掛ける。
その重みで、ベッドが少しだけ沈んだ。
Aの小さな手を、そっと握り返す。
そして何となく、Aの頭を優しく撫でた。
すると何の前触れもなく、Aは泣き出した。
声を上げるわけでもなく、息を震わせるわけでもなく
ただただ、涙だけがポロポロと溢れ出てきて
それは他のどんな泣き方よりも、見ていて胸が痛くなるような泣き方だった。
「……悟、」
『ん？』
小さく掠れた声で名前を呼ばれて、悟はほんの少しだけAの方に体を近づける。
「…傷のこと……誰にも、言わないで」
少しだけ息を震わせながら、Aはそう言った。
悟はAの涙を拭ってやりながら、うん、と頷く。
『…分かった』
しばらくしてから、Aは眠りに落ちた。
悟の手を握っていたAの手はすっかり力が抜けていたが、悟はしばらくのあいだ側を離れなかった。
途中で目を覚ました時、暗い部屋に一人きりだったら
Aがものすごく、寂しがりそうな気がして。
Aはそれから、熱が出てしばらく授業を休んだ。
寮母さんが食事を持ってきてくれたが、悟も時々、部屋に様子を見にやってきた。
一般科目の授業で配られたプリントなんかを届けにくるだけの時もあったし、何か飲み物を持ってきてくれる時もあった。
Aには、その優しさが不思議だった。
「…悟、」
『何』
「悟は…私のこと、嫌いなんじゃないの…？」
熱でぼんやりとした意識の中で、Aは尋ねた。
悟は、少しのあいだAのことを見つめてから
『嫌いだけど』
と、あっさり切り捨てる。
『でもまあ、』
「……」
『弱ってるときは可愛いよ』
そう言って笑って、Aの部屋を出ていった。
「……何それ」
悟がいなくなった部屋で、Aはぼそっと呟いた。
……と、まあ、こんな感じのことが、２人の関係性が変化するきっかけとなった出来事の全容である。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1427人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ヤハウェ(プロフ) - Wolf @ 元フェアリーさん» 禿同 (7月15日 16時) (
レス) @page48 id: 4505794e30 (このIDを非表示/違反報告)
Wolf @ 元フェアリー(プロフ) - ちょっとそのバイト店員さんそこ変わって欲しい (7月15日 14時) (レス) @page48 id: ebc545326a (このIDを非表示/違反報告)
ヤハウェ(プロフ) - あい(^_−)−☆さん» お前の心臓の支配権は…僕にある…‼️チェッックメイトォォ‼️ (7月15日 8時) (レス) id: 4505794e30 (このIDを非表示/違反報告)
ヤハウェ(プロフ) - なゆさん» おっと、君は僕の使徒かにゃ？？面白い！と思ったら大体僕だと思いますよ。面白いという概念を生み出しているのが僕なので（？）こちらこそあざ‼️ (7月15日 8時) (レス) @page47 id: 4505794e30 (このIDを非表示/違反報告)
あい(^_−)−☆(プロフ) - なんかすごく心がキュンとしたって言うかなんて言うんだろう深い.... すき..❤︎ (7月14日 23時) (レス) @page46 id: 86f9264a88 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ヤハウェ
| 作成日時：2023年7月7日 2時
