・ ページ30
障子の向こうではすでに硝子と傑が酒飲みを再開していて、時々硝子の大笑いが聞こえてくる。
悟は静かに、自分の腕の中にいるAを見つめていた。
いつもの刺々しさはどこへやら、すっかりふにゃけたAの顔はお酒のせいでほんのり赤くて、全く無防備だ。
我を離すべからずとでもいうように悟の浴衣を掴んでいる手もどこか力無くて、抵抗力のなさが窺える。
理性のない奴なら手を出すだろうな、と悟は思った。
「……さとる…」
『何』
「……かえりたくない…」
状況が違ったら夜のお誘いにしか聞こえないようなことをAは言った。
この旅行がそんなに楽しかったのか、と最初悟は思った。
「…あの家、帰るの…こわい……」
Aの身体がきゅっと縮こまって、悟はAが「帰りたくない」場所が禪院家のことであると、その時気づいた。
とろんとしたAと、視線が交わる。
「もし…わたしがさぁ、あの家に、帰らないといけなくなったら…
さとる…ほんとに、助けてくれる……？」
Aの目が、少しだけ潤む。
『…うん』
悟がそう答えると、潤んだ瞳からポロッと涙がこぼれ落ちた。
『絶対助けてやる』
悟がそう言ってAの頬を伝った涙をそっと撫でると、Aはその手を上からギュッと掴んで、少しだけ微笑む。
こんなに優しくて柔らかい笑顔をAから向けられたのは初めてで
元の顔立ちの良さも相まってか、その笑顔が信じられないくらい可愛かった。
嫌っている人に対して向ける笑顔だとは、とても思えなかった。
『…お前さ、俺のこと嫌いなんじゃないの？』
もし、Aに「嫌いじゃない」と言われたら
そういう仮定に対しての答えを、今は具体的に想像できた。
——— 「五条はさ、向こうがアンタのこと嫌ってなくてもAのこと嫌いなの」
『それでもアイツは無理。元の性格が最悪だし』———
前に硝子に聞かれた時はそう答えたが
そんなことありもしないと思いながら想像するのと
実際にありそうな状況に置かれた今とでは、出る答えがかなり違ってくる。
今もし、Aに嫌いじゃないと言われたら
自分の気持ちも、少し変わるかも知れないような気がしていた。
…が、
「…きらい。ぜんぶきらい」
『あっっそ』
そんなことにはならなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1427人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ヤハウェ(プロフ) - Wolf @ 元フェアリーさん» 禿同 (7月15日 16時) (
レス) @page48 id: 4505794e30 (このIDを非表示/違反報告)
Wolf @ 元フェアリー(プロフ) - ちょっとそのバイト店員さんそこ変わって欲しい (7月15日 14時) (レス) @page48 id: ebc545326a (このIDを非表示/違反報告)
ヤハウェ(プロフ) - あい(^_−)−☆さん» お前の心臓の支配権は…僕にある…‼️チェッックメイトォォ‼️ (7月15日 8時) (レス) id: 4505794e30 (このIDを非表示/違反報告)
ヤハウェ(プロフ) - なゆさん» おっと、君は僕の使徒かにゃ？？面白い！と思ったら大体僕だと思いますよ。面白いという概念を生み出しているのが僕なので（？）こちらこそあざ‼️ (7月15日 8時) (レス) @page47 id: 4505794e30 (このIDを非表示/違反報告)
あい(^_−)−☆(プロフ) - なんかすごく心がキュンとしたって言うかなんて言うんだろう深い.... すき..❤︎ (7月14日 23時) (レス) @page46 id: 86f9264a88 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ヤハウェ
| 作成日時：2023年7月7日 2時
