【w/r/w/r/d】忘れられる事なき【軍パロ】 (ページ10)

今日:5 hit、昨日:9 hit、合計:10,136 hit

10 ページ10

ブール国、軍隊長室。

『寝ようとしてたのになんですか、エーミールさん。』

「怒んないで下さいよ。ちょっとね…」

Aは、エーミールに呼び出されて軍隊長室にいた。緊急招集でもなければ、寝る前に毎日あって話をすることもしていないのだが。
不満ではあったが、いつもの優しい笑顔でない事が気がかりだったので、特に帰ろうともせず静かな空気に居座る。

「話しずらい事なんだけどね。」

『…仕事ですか？』

「んー…うん。まあそうとも言う。」

言葉を濁らせて話を進める彼に若干のイラつきを覚え、「早く言ってください」と急かすと、暫くしてから急に真剣になったような顔でこちらを見た。

「グルッペンの事、覚えとる？」

『…そりゃあ。村で仲良かった人は、一応。』

顔さえ変わってなければ、と付け加えれば彼は乾いた笑みを見せて、また考え込むような体勢になる。

「…本部から作戦依頼が来ててね。依頼というより強制に近いけど。どうやら我々国がモルテ地方の返還を要求してるそうなんだ。」

『…本部の対応は』

「二日後には答えを出さないといけない。因みに…今は拒否が多数みたいやな。」

『…エーミールさんはどう思ってるんです？』

「せやな…拒否のまま通るとしたら、多分我々国は宣戦布告してでも奪還に来る。我々国の脅威は計り知れんし、こちらは軍備が追い付いてない。返還が妥当なんやろうな。それに…」

『それに？』

「戦争が始まったら、ブール国は真っ先にモルテ地方を潰すつもりや。あの綺麗な赤い花が、また潰れる日が来てしまう。しかも今回は、俺らは“潰される”んじゃなくて“潰す”事になる。」

『は……なぜモルテ地方を？』

「簡単な話や。負ける戦争と、あちらの土地にされると分かってるんやぞ？今後あの土地が使い物にならないようにすればいい。…そういう発想や。」

『それで、本部は拒否しようとしてるっていうこと…』

「土地さえあればいいと思っとる連中や。道具としてしか見とらん。それに、この国で私情を挟んでしまうのは俺ら位だからな…」

『…そうだね、そうだよね。』

「……気分悪いよな。ごめん。今日はもう休んで…」

『ん…失礼します……』

フラリ、と立ち去ったAを見送る。

ソファに深く腰を掛け直したエーミールは溜め息をついてから、煙草に火をつけ始める。

「1番私情を挟んでるのは、私なんでしょうけどね…」

─────彼は、“あの日”の“彼”の表情が忘れられない。