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「それにしても珍しいね」
『え？なにが？』
「ナイフで怪我したこと」
医療室にはしんぺい神とAがいた。隣の総合医務室では、夕方に戻ってきた部下達が雑務をしている。(エーミールがいた時に不在だったのは、単に練習中に怪我した人に向かっただけだったようだ。)
『ああ…うん。持ち方の練習してて。』
「持ち方？何か変だっけ？」
『うーん…変とかはないけど、慣れてないんだよね。』
ここまで言われて、しんぺい神は「ああ…」と納得する。
Aは特殊部隊長になる前はほぼ銃のみを扱い、ナイフのような近接戦は殆ど実践歴はない。重圧がかけられる中、この緊迫した情勢では、誰から言われなくともやらなければいけないと思っているのだろ。努力は評価するが、Aの手の具合を見ると多少の注意もする必要がありそうだった。手首は慣れない動きで炎症を起こしているし、指も小さな切り傷が多い。トドメのように先程の切り傷が目立つ手は、あまりにも禍々しかった。
「ねえA、練習は偉いけどこれは酷いよ。やりすぎたら腱鞘炎とかで使いものにならなくなるよ？」
『ええ…まだまだ下手くそなのに…』
ひと通りの治療を終え、しんぺい神は立ち上がって、簡易的に用意している小さなまな板とフルーツナイフを出す。流れるようにレモンを薄くカットしながら、会話も続ける。
「そんなになるほど練習して向上しない人は隊長なんか任されんよ〜。だから大丈夫やって」
『…そうかなあ…』
「そうやろ。それに銃の扱いは得意やん？何も近接で戦わなくても」
『だってなんの増援要請くるかわかんないからさ…』
茶葉をティーポットに入れ、ぬるめのお湯を注ぐ。色が出たら、ほんの少し白ワインを混ぜる。最後に切ったレモンを乗せた。小さなトレイに2つティーカップを乗せて、元の席に戻る。
「まあ一理はあるけどさあ…とにかく、ほんまに無理はせんでね。」
はい、と渡すと、Aは不思議そうにカップの中を眺める。
『レモンティーじゃ…ないよね？』
「そうだよ〜。あ、甘くしたい時はガムシロップ入れてね。はい」
『ありがとう……ん、ワイン入ってる…？』
「よく分かったね。スプーン2杯ぶんしか入れてないから安心してや」
『やっぱり。でも美味しいからいいや…』
そう言って彼女は、軍人とは程遠い笑顔を見せる。
空はすっかり暗くなっていた
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作者名：HAL | 作成日時：2017年9月22日 20時
