罪の告白 ページ17
場所は東海地方の田舎の町。山を切り崩して谷を埋め、できた狭い田舎町。
私は両親と弟2人、妹1人の6人家族でもうすぐ7人になるはずだった。
父は大手車メーカーへ部品を作っている中小企業の社長を祖父から受け継ぎ、暮らしは他の家よりは裕福だった。
当時ニュータウンだった田舎町へ移り住み、数年のこと。
近隣の市立中学校が定員超過のため分離で真新しい中学校が建設された。私はその一回期生だ。
他よりほんの少し裕福で、決して贅沢はしなかったけれど家族全員で大きな問題もなく暮らしていた。
珍しくはない、恵まれた幸せな一家族だったと思う。
あの日私の手元には母から受け継いだばかりの裁縫道具があった。飴色の皮のカバーに対し、輝くような美しさを放つ研がれたばかりの裁ちばさみの刃をうっとりと見つめていた。
ようやく譲ってもらえて、研ぎに出していたものが戻ってきていたのだ。分解して何度も磨いたり油を刺したりしながら飽きることなく眺めていた。
ねじを失くしてしまう前に締め直そうと、手で締めたら油がついてしまう、なら工具を使おうと思い、使用許可を求める為にばらしたはさみを持って階段を降りた。
下の部屋にいるはずの母さんに声をかけようとしたのだ。
部屋を視界に入れた瞬間、喉元まで出ていた言葉が生きがつまりでもしたのかというほどにつっかえた。
「母さん、父さんの工具箱借りてもいいかや?」という言葉が失せてしまった。代わりに出たのは掠れた呼吸だけだった。
雪のように、本当に雪のように真白な肌、真っ白な素敵なワンピースから伸びる折れそうなほど細い手足、真っ直ぐに腰まで伸びた黒髪。
こんな綺麗な女の人は、この町には1人しかいない。
「………
近所の隣の家の小雪さんだった。
私が小学生の時にお嫁に行って、少し前に出戻ってこの町へ帰ってきている。
誰もが目を引く月下美人で、なぜ離婚したのか不思議がられていた。噂によると、子供に恵まれず離縁されたらしい。
彼女の手の中には肉切り包丁が握られていて、血飛沫がワンピースを鮮やかな赤に染めていた。
足元に転がるのは
一番目の弟。
たった1人の妹
わがままな二番目の弟。
美人で自慢の母さん。
生きて生まれてくるはずだった、
胎の中にいるはずの末の胎児。
木の床を伝う生暖かい血液が冷え始めていた。
285人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ほのか - やばい。私の好みにどんぴしゃり! (2020年8月4日 9時) (レス) id: ef884c23cc (このIDを非表示/違反報告)
?返事がない、筆記試験終了の安心で寝ているようだ(プロフ) - ひえっ、めっちゃ細かく考えられてる、すげぇ… (2020年2月15日 8時) (レス) id: e085487720 (このIDを非表示/違反報告)
すばる - 乾 巽さん» ですよね!!うぅ〜......土籠先生... (2020年2月5日 17時) (レス) id: f38b18c5a9 (このIDを非表示/違反報告)
乾 巽(プロフ) - すばるさん» そうなんですか…いきなりログインできなくなる系困りますよね (2020年2月2日 17時) (レス) id: a83f0b56fb (このIDを非表示/違反報告)
すばる - 乾 巽さん» わああ!!ありがとうございます!!!それがですね、設定ってどこぞや?と思って血眼で探したらログインしないと出てこない系でした...Wii Uなんで、前ログインできてたんですけど何故か去年の夏からログイン出来なくて...ぴえん(;ω;) (2020年2月2日 17時) (レス) id: f38b18c5a9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:乾 巽 | 作成日時:2020年1月19日 11時