ソノ感情ノ名ハ ページ19
とても幸せそうに、大きなカバンを持って旦那の新品の車に乗って、私たちが見えなくなるまで手を振ってくれた。
あの時の小雪さんが偽者だったとは思わない。
あの時の小雪さんも、今目の前にいる小雪さんも、同じだ。
優しい小雪さんのままだ。
だから、今ここで殺さなきゃいけない。
生かしておいたら、私はきっと永遠に小雪さんを憎み続ける。怪我をした瞬間は痛まなくても、時間が経つに連れ冷静になってじくじく痛んでいくように。
病気のまま、正気に戻らないままふらふら生を送るとしたら、私はそれをきっと恨んでしまう。
本当は、誰も恨みたくなんかないし憎みたくもない。
大きな望みも将来の夢も何も願いごとはない。
ただ普通に幸せに生きていられればそれで良かった。
恨んだり憎んだり、人を殺したり。そういうことをしたら、今まで世界のルールを守って生きてきた自分が居なくなりそうで怖かったんだ。
けど、もうやめた。
人を殺しちゃいけないなんてことも、恨んだり憎んだりしたらいけないなんてことも、全てやめた。
もう何も堪えたりしない。
この先の自分の人生の為に我慢することも、彼女の命を奪う罪悪感が怖い手の震えも。
やめてしまえ。私はもう我慢したりしない。
_______やっとメーターに計測されなかった大きな感情の名前を知ることができた。
殺意だ。
殺す為に動くという強い意志。
小説で読んだように激情的でもないし、ぐらぐらと煮えたぎったりもしない。
殺意とは、必ず殺すという意志そのものであって、それ以上でもそれ以下でもないということを知った。
激情的なのは、憎悪やただの感情の高ぶりであって、殺意じゃない。
「小雪さん、死んでください」
私の為に死んでください。
これから生きていく貴女を私が恨むことがないように。小雪さんが死んで初めて、私は誰も恨まなくて済む。
はさみを握って、小雪さんの胸元へと突き通した。
研がれたばかりの鋭利な刃は、私の力でもたやすく深々と突き刺せた。
刃は根元までずっぷりと沈み込んで、小雪さんはそのまま後ろへと倒れた。
死んでください、と言うと、小雪さんは刺される瞬間に少しだけ微笑んで頷いた。
「________うん」
その笑顔を貼り付けたまま、引き抜いたはさみの部分から噴水のように吹き上がる血を浴びていた。
残っていたのは、途方もない喪失感だけ。
最後、小雪さんは避けなかった。
包丁を持っていたのに、私へ切りつけることなく心臓を貫かれた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 285人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ほのか - やばい。私の好みにどんぴしゃり！ (2020年8月4日 9時) (
レス) id: ef884c23cc (このIDを非表示/違反報告)
?返事がない、筆記試験終了の安心で寝ているようだ(プロフ) - ひえっ、めっちゃ細かく考えられてる、すげぇ… (2020年2月15日 8時) (レス) id: e085487720 (このIDを非表示/違反報告)
すばる - 乾 巽さん» ですよね!!うぅ〜......土籠先生... (2020年2月5日 17時) (レス) id: f38b18c5a9 (このIDを非表示/違反報告)
乾 巽(プロフ) - すばるさん» そうなんですか…いきなりログインできなくなる系困りますよね (2020年2月2日 17時) (レス) id: a83f0b56fb (このIDを非表示/違反報告)
すばる - 乾 巽さん» わああ!!ありがとうございます!!!それがですね、設定ってどこぞや?と思って血眼で探したらログインしないと出てこない系でした...Wii Uなんで、前ログインできてたんですけど何故か去年の夏からログイン出来なくて...ぴえん(；ω；) (2020年2月2日 17時) (レス) id: f38b18c5a9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：乾 巽 | 作成日時：2020年1月19日 11時
