黒死牟さんと一緒 参

拾話 ページ11

Aが目を覚ました時、すでに彼女からミツミ達の記憶は消されていた。
多少の既視感は残るが、その鬼の血鬼術にかかり思い出した例はほとんどない。

そして、同時に彼女は混乱しただろう。なぜかって黒死牟が目の前にいるからだ。

「なんで…」

目を見開き、Aは絶句した。

「目を…覚ましたか……」

黒死牟には記憶がある。あるからこそ、こうしてAを前にしても動揺することはなかった。
落ち着いた様子で、そっと震えるAに手を伸ばす。
拒絶はしなかった。だが彼女は背中に黒死牟の手が触れるとビクッと体を震わせた。

(どうしよう、黒死牟さんは私の事嫌いじゃないの？)

そっとAを抱きしめると黒死牟は言う。

「…私の事が…嫌いか…」

「…そんな事ない……」

自分で聞いたものの、返事が怖かった。

もし彼女がもう私を好いてはいなかったら…そう考えただけで、もう感情はないのに、なぜか悲しい気持ちになるのだ。

すると彼女は黒死牟を抱きしめ返した。

「あのね、黒死牟さんは私の事嫌いじゃない…？」

そう言ったAは少しだけ震えていて、黒死牟は背中を優しくさするとそんな事はない、と笑顔で言った。
彼女の顔を覗き込むと緊張が解け、安心で少しばかり目元に涙が溜まっていた。

「よかった…」

安心したように微笑むと、Aは再び目を閉じる。

「寝たのか…」

黒死牟は優しく布団に寝かせると部屋の襖の奥に視線を向けた。

「いるのだろう…」

襖を開けて部屋へ入ってきたのは童磨と猗窩座だった。

「いや〜、よかったね！黒死牟殿！」

「あいつは血鬼術の副作用で寝たんだよな？」

「あぁ…そうだ……」

実は童磨の紹介した鬼の血鬼術は効果そのものは強いがそれの副作用で術にかけられた者はしばらくの間1日の半以上寝て過ごす事になるのだ。
およそ一週間ほどだろうか。


「二人が仲直りできて俺の頑張った甲斐があったものだなぁ！」

「どうせお前は余計な事しかしていないだろう童磨」

「ひどいなぁ、猗窩座殿は。よし、俺がいかに良い事をしたか話してあげるよ」

「………」








________




その日Aは夢を見た。


自分と同年代くらいの少女と楽しく遊ぶ夢だ。





その少女の名前は、ミツミという。



Aの目からは何が悲しいのかわからないままただただ涙が溢れていた。


何か、忘れては行けない事。思い出そうとすると頭に靄がかかる。


「………なんだっけ」

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