421 ページ19
◇
『ひっく、ぐすっ……』
控室に戻ってきたヴィルは手を繋いだままAを振り返る。
ここまで来る間もずっと背後からは泣き声が聞こえていた。
「悪口を言われたわけでもないアンタがなんで泣いてんのよ」
『だっ、て……あの人っ……ヴィルのこと、悪く言ったからっ』
「……アンタ、馬鹿なの。1人2人にあんなこと言ったところで他にもアタシのことをそう思ってる人は大勢いる」
『それでもヴィルのこと悪く言われるの嫌だったんだもん』
透明な涙を流しながら悔しそうに言うAをヴィルは綺麗だと感じた。
どうしてここまで他人のために怒り涙を流すことができるのか。
その涙を止めたいと思うと同時に、流している涙が自分のための涙だと思うと嬉しいと思ってしまう。
「……はぁ。ほら、さっさと泣き止みなさい。可愛い顔が台無しよ」
『んっ』
服の袖で涙を拭おうとしているAを止め、ヴィルはハンカチで優しく涙を拭く。
『そうだ、この前のヴィルが出てるドラマ見たよ！ すっごくカッコよかった！』
「ありがとう。……いつもみたいに主人公の敵役だけどね」
皮肉めいた笑みを浮かべるヴィルにAは首を傾げる。
『どうして敵役がいけないの？』
「え？ だって、悪役よ？」
『悪役がいないと主人公は輝けないよ。悪役がいないヒーロー物なんてなにと戦っていいのかヒーローも困っちゃうよね。私はヒーローも好きだけど悪役の方が好きだよ。だってヴィルの演じてる悪役、カッコいいんだもん！』
「っ！！」
Aの言葉にヴィルは父親の言葉を思い出した。
「悪役は物語をドラマティックに彩るために、なくてはならない特別な存在。だから胸を張って演じなさい」
幼い頃悩んでいた自分に父はそう言った。
「……主人公からお姫様を攫う悪役でも、アンタはアタシをカッコいいと思うの？」
『うん、思うよ。ヴィルみたいな綺麗な人に攫われるならお姫様も嬉しいと思う！』
「そう……。それならいつかアタシがアンタを攫ってあげる」
『わたし……？ 私はお姫様じゃないよ？』
不思議そうに首を傾げるAにヴィルは慈しみの眼差しを込め
「……鈍感なお姫様なんだから」
小さな身体を抱きしめた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1459人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
翡翠 - 返信ありがとうございます！そうですね…今後に期待です！ (2021年6月15日 8時) (
レス) id: 3ec5fcf21a (このIDを非表示/違反報告)
ここ(プロフ) - 翡翠さん» 翡翠さん応援ありがとうございます^ ^6章の公開がとても楽しみですね！そのお2人はメインストーリーでもあまり登場がなかったのでどう絡んでくるのか、とても気になります。公開が待ち遠しいですね。 (2021年6月15日 8時) (レス) id: e9ce79e520 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠 - 更新頑張ってくださいです！六章が楽しみですね…！(六章イ○アや○ルトがメインらしいです…ハイ、ネタバレすみません！)お応援しております！ (2021年6月14日 23時) (レス) id: 985c3b27ad (このIDを非表示/違反報告)
ここ(プロフ) - ちょりさん» ちょりさんありがとうございます！当分先になりそうですが、その分楽しみも大きいですね！イベントはみんなの意外な素顔なども知れていいですね〜♪バルガスキャンプではラギーくんでます！いっぱいでます！！（ネタバレ）楽しみにしてくださって嬉しいです(*^_^*) (2021年5月2日 7時) (レス) id: e9ce79e520 (このIDを非表示/違反報告)
ちょり(プロフ) - 5章執筆お疲れ様です！！ゲームの本編の方もまた楽しみですよね〜！いつになるやらですが（笑）公式さんはもはやイベントで繋げるのが定番になってきましたね！w。バルガスキャンプのラギーくんとの絡み、とてつもなく楽しみにしてます！！^o^ (2021年5月1日 22時) (レス) id: dcc02d0370 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ここ
| 作成日時：2021年3月26日 21時
