氷国の女医2 (ページ37)

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辺りを見回し、時計を見ると既に22時を回っていた

『私のせいで遅くまで…すみません』

音「全くですよ。

あなたが無茶をしたせいで

私まで上司と大臣に怒られましたよ」

『え！

それは本当にすみません…』

音「不仲だと噂されようと、親子は親子という事ですかね

普段冷静な大臣があそこまで取り乱す姿は初めて見ました。」

『母が…』

母の話も気になったが先程から一切こちらを見ず、

下を見て静かに話す音羽先生に違和感を感じた

よほど母に絞られたのだろうかとも思ったが

官僚である彼からしたら理不尽に怒鳴られるなんて

日常茶飯事の様な気がする。

特にMERに配属してからは、

厚労省のスパイとして、一人の医者としての間で

立ち回る彼が上司から怒られただけでこれだけ落ち込むのだろうか

私には彼が、落ち込んでいるというより、

私と意図的に顔を合わせないようにしているように感じた

『音羽先生、顔を上げてください。

どうして私の方を見てくれないんですか？』

「なんですか、いきなり。」

私の言葉に一瞬顔を上げるも、またすぐ目を逸らし

しらばっくれる彼に、

私の勘は間違っていなったと確信する

『音羽先生、私はあなたを信頼しています。』

音「 … 」

『あなたが厚労省からスパイとして

MERに送り込まれたことを知っている上で

信頼してるんです。

それはあなたが、

どんなに厳しい現実だろうとも

目を背けたくなるような真実だろうとも

目を見て真っ直ぐに向き合って

くれる事を知っているからです。』

私の言葉に彼はため息のように短く息を吐き出す。

しかしそれは呆れて出たため息というよりも

何かを決意して吐き出した覚悟だった

音「…私は何度も言いますが官僚です。

あなたの言うような綺麗な人間ではありませんよ。

しかし、もう一つだけ、

あなたに伝えておかなくてはいけないことがあります。」

『はい。』