氷国の女医2 (ページ12)

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病院に戻る頃には日が暮れており、

夜勤明けの私とMER専属の喜多見先生以外はそれぞれの勤務に戻る。

相変わらず筋トレに勤しむ彼の隣に立つと

『今日はありがとうございました。助かりました。』

そう彼にお礼を言う。

喜「いえ、A先生が先にオペに入っていてくれたおかげで素早くオペが終わりました。

助けられたのはこっちです。」

謙遜する彼に反論しようとするが、

これも彼の優しさだと思い直す。

喜「まだ発作は起きますか…？」

筋トレを止めその場に座り込んだ喜多見先生に

問いかけられる。

『…そうですね、

少し落ち着いてはきましたが

まだ完治という訳にはいかないみたいです。

あの時の手の感触が

匂いが

音が

今でも鮮明に残っています。』

忘れたことなんて1日も無い。

けど不意にフラッシュバックするあの時の光景にはいつも取り乱す。

『忘れられたら楽なのに、

あの時救えなかった私にはそれすらも許されない』

喜「忘れなくてもいいと思います。

大事なのは後ろを見て俯くんじゃなく

少しずつでも前を向いて進むことです。

立ち止まったっていい。

その時には俺が、

今はMERメンバーが背中を押しますから。」

喜多見先生の言葉に涙が頬を伝う。

『…ありがとうございます』

「大丈夫、あなたはしっかり進めてる。

以前会った時より技術もあがってる。」

そう言うと立ち上がった喜多見先生の手が

私の頭に伸びる。

ポンっと触れた手から伝わる温かさが

私の心を包み込むように広がってゆく。

『いつか、喜多見先生に追いつけるよう、

私頑張ります』

彼の顔を見上げてそう宣言すると、

困ったようにふわっと微笑む彼の顔が

私の心をまた満たしていく。

その様子を見ていた影があったことを私知らない。