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彼は、女性(何度も言うけど、マネキンやからな!!)の顔を覗き込み、額と額をコツンと合わせる。


そしてしっかりと女性を見つめ、優しく、まるで愛おしいものを見るような目で、微笑みながら、女性の横髪を持ち上げ、軽いキスを落とした。



何かセリフがあった訳ではないが、目が、表情が、全てを物語っていた。



「綺麗」


やはりその言葉しか思い浮かんでこない。



撮影自体は1分もかかっていないはずなのに、俺にとっては時間の感覚さえ狂ってしまうほど、彼に見蕩れてしまったようだ。


…まさに彼の虜になってしまった。






現場に居る誰もが俺と同じだったかもしれない。
いや、そうなのだ。





現に、撮影が終わっても、誰1人として声を発さない。




全員がただ1人、彼に見蕩れていた。





彼が恥ずかしそうにセットから出ようと動き出したと同時に、監督は急いでカットの声をかけた。





「重岡さん!!OKです!!」




まさかの、彼も1発OK。









ほんまに…あいつ、一般人…なんか…?









俺の隣に居た流星も言葉を失っていた。



ジッと彼を見ていた。






彼は一刻も早くこの場から出て行きたかったのか、あらゆる方面にいるスタッフさん達に片っ端からお礼と挨拶をし回っていた。





何人が彼の虜になってしまったのだろう。






未だに俺も含め皆が固まってしまっている。


これは比喩なんかではなく、言葉通りだ。




俺の近くに居た女性のスタッフさん数名も顔を真っ赤にしながら、口元に手を当て、彼を見つめていた。







彼は一通りスタッフさんに挨拶を終えた後、俺と流星の元にやって来た。

「…あのっ…今日は…すみませんでした…!!ありがとうございました…」



そう言って本日3度目の深々としたお辞儀をすると出口へ向かおうとしていた。




俺は彼の腕を無意識のうちに掴んでいた。



よく見ると流星も彼のもう片方の腕を掴んでいた。


「…?」




彼は不思議そうにこちらを見つめてくる。



やっと目が合った。


俺と流星は身長が180以上ある。




彼はそんな俺達よりも何cmか低い為、必然的に俺らを見上げる状態になってしまう。


所謂上目遣い。







「…ど…どうしました…か…?」




彼は恐る恐る口を開く。

また怖がらせてしまったかもしれない。




「なぁあんたほんまに何もんなん?」

「…あの演技力、素人がそう出来るもんやないで」

俺の問いかけに被せるように流星も質問を投げかける。

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作者名: | 作成日時:2020年9月26日 22時

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