午後三時半のレクイエム。【不死川実弥】

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　それにしても驚いた。あの不死川実弥が、子供たちと仲睦まじく手を繋いで遊んでいた。傷だらけで、寂しそうな男が別人に見えた。氷柱のように冷酷で突き刺すような目も表情も、今は丸く柔く穏やかなものとなっていた。
　子供たちに肩車をせがまれても嫌がる素振りなど見せずに、おら、と優しく子供を持ち上げた。俺も、私も、と甲高い声が上がる中、「順番だァ」と優しく微笑みかけていた。
　さすがの匡近も平然を装いつつも、少しばかり戸惑っている風に見て取れた。



「……意外」
「きっと今の実弥が本当の実弥なんだろうな」



　隣の匡近は笑っているけど泣いているようだった。鬼殺隊士の殆どが、肉親や兄弟、愛する人の命を無常にも奪われ、同じ悲しみを断ち切るため隊士を志したものばかりだ。私も匡近も。それは勿論、不死川もそうなんだろう。
　彼が、どんな毎日を生きてきたのか、心の奥底に何を抱えているのか、私には分からない。
　でも、あの悲しく光りまるで助けてくれ、と訴えかけてくる瞳を見れば、壮絶な道を歩んできたんじゃないかと思う。


　この日、彼の新しい一面を、私は知ったのだ。


　その日の夜だった。風が気持ちいいこの地域に潜伏していた鬼がその牙を向けた。十二鬼月でも何でもない鬼だった故、難なく鬼殺出来たが住民たちが被害を受けた。
　日中、不死川と一緒に風車を作っていた、新太、という男の子が右腕を掻っ切られた。大事なく落ち着いたが、その時、不死川は新太を抱き抱えたまま膝から崩れて泣いていた。
　肩を震わせ、「ごめん、ごめん」とずっと泣いていた。立ち寄った藤の家で、不死川はポツリ、ポツリと話した。
　鬼と成り変わった母を手にかけたあの夜から人間らしい人生などとうの昔に諦め、今、自分を突き動かしているのは鬼への尽きぬ苦しみと、たった一人生き残った弟の幸せのみ、だと。
　面白いぐらいに淡々と不死川は話した。まるで何かの御伽噺であってくれぬかと思うほど、それは痛くて、惨いものだった。


　─────貴方の傷に触れた。


　今思えば、私は触れるべきではなかったのかもしれない。私と貴方を繋ぐのはせいぜい、同じ生業ぐらいの冷めたものであった方がよかったのかもしれない。そうすれば、苦しむ貴方は生まれてこなかったはずだった。

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